心加熱レンジ登場

 人間を中に入れてスイッチを押すと、心を熱くすることができる電子レンジが発売された。その名も「心加熱レンジ」。


 心が熱くなることにより、有史以来の敵、「めんどくさい」「やる気が出ない」が無くなった。


 仕事に行きたくない会社員の心を加熱。出社率アップ!


 勉強したくない学生の心を加熱。成績アップ!


 倦怠期夫婦の心を加熱。出生率アップ!


 心が原因の停滞が無くなった人類は繁栄した。しかし、ただ一つの例外があった。


 アサダは出版社に勤める会社員。今日も担当する作家、イイダの元に通う。しかしその足取りは重い。


 「いやぁアサダ君! よく来てくれた! 傑作が書けたぞ!」


 アサダは渡された原稿データを読む。どう読んでも駄作だ。アサダは曖昧な笑みを浮かべた。

 それを見たイイダは満足げに言った。「心加熱レンジは素晴らしい! 傑作がたくさん書ける!」


 アサダは内心でつぶやいた。(作家はやる気だけではダメだ。頑張って書いても駄作は駄作。半分寝て書いても傑作は傑作。そこだけは変わらない)と。


 今日もどこかで作家の荒い鼻息と、編集者のため息が聞こえている。

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