130話 第10幕 謎めいた結末へ。③

6月25日 20時17分



「フフン。面白いじゃないか。さて、問題の宝箱を確認しに行こうか」



 ミカがゆっくりと鉄扉に手をかけた瞬間、微かな金属音が部屋に響き渡り、私の胸には期待と不安が入り混じる。


 床の大きな扉が静かに開く。ミカと私は顔を見合わせて頷く。


「お2人とも、行きますよ。探偵さん、その怪我の手をぶつけないように気をつけて」


 開かれた床の扉の奥を覗き込むと、簡易階段が下へ下へと続いている。こわごわそれを降り切ると、薄暗く埃っぽい地下室が現れた。


 洋介がパチンと音を立てて電気のスイッチを入れる。照らし出された室内は、見たことのない機材やダンボールがあちこち置かれ、雑然としている。


「床にもあちこちコードがあるので転ばないように……」


「洋介さん、発光器は見つかる?」


「よくわからない機材が沢山あるな……これも、これも、前に出入りしていた時には無かった……けど、大丈夫」


 私たちは辺りをくまなく歩き回り、発光器を探す。


「ん?これは……」


 奥に置かれたデスクの上に、【受注記録】と書かれたノートが置いてあった。


 ページをめくると、最後のページに神楽坂かぐらざか「ニケ」の文字が……


 ユッキーが骨スプーンを昨日発注した時のものだろう。何気なく数量を見るととんでもない数だ……


「ユッキー、発注ミスにも程があるよ……」


 今回ばかりはアニに同情する。お店に帰ったら骨スプーン祭りなのであろう。


 さらに何ページかめくると、見覚えのある名前が。


神江島雅治かみえしままさはる……あれ?スプーンじゃないけどトキノトに注文しているんだ」


 色々ありながらも、付き合いで購入してあげる仲なんだな、と私は思った。


 その時、洋介が手を振りながら叫んだ。


「──あった、あった。ここです」


 彼が指さしていたのは、中に土が盛られたごく普通の長方形の植木鉢だった。


 よく見ると、太陽光代わりのLEDが点く仕様になっている。あまりにもその機材が普通なので、逆に驚いてしまう。


「これなの?物々しい物を想像してたけど、お洒落なプランターって感じだね……」


「姫が部屋で大事に育ててそうな代物だね」


 言いたいことを言う私たちに苦笑していた洋介の顔つきが、急に一変した。


 彼は慎重に手を伸ばし、土を指先で掬い上げ、じっくりと観察する。そして発光器をくまなく触り始めた。


「どうしたの洋介さん?」


 私の問いに洋介は目を伏せる。答えを口にすることをためらっているようだったが、やがてぽつりと呟いた。


「こんな事って……」


「──何かあったの?」


 洋介は私に視線を向けると首を振って見せる。


「これは僕が知っている発光器じゃない……しかも、この土にもどう見ても、生分解された跡があるように見える」


 洋介は長方形の鉢植えのような物の中の土を指差した。


「この部分……明らかにスプーンの形をしていないか?」


 洋介が指差した場所を、私とミカは凝視した。確かに、その土の一部がスプーンの形をしているように見える。


「確かに……これって」


 私は困惑しながら呟いた。


「生分解されて、毒も分解されているだろう……ありえない、信じられない速さだ」


 どう受け止めていいか分からない、洋介の瞳はそう言いたげな様子で揺れていた。


「ということは、これって……もしかして、毒入り骨スプーン……?」


 私は思わず口走った。


「ああ……多分ね。信じられない、冗談で言っていたレベルの発光器が完成されているとしか……」


 洋介は植木鉢を見つめる。その眼差しは、まるで未知の存在を前にしているかのようだった。


「このライトって光ってるのかい?」


 ミカは興味津々に尋ね、植木鉢に備え付けられたLEDライトを眺めた。


「あ、はい。光ってます。人の目にはわかりませんが……」


 洋介が答える声には驚きと興奮が入り混じっている。


「俺が想像していた以上のものだ。今の技術でこんなものが出来るなんて……信じられない」


 ミカは目を細めて、その細長い蛍光灯のような発光器を手に取る。


「手に持っても光ってるのかい?」


と彼女が問いかける。


「ええ、恐らく。俺が提案した時もコードレスだったし、その進化系なら間違いなくコードレスでしょう……」


「もう一つ、この会社は身内なら顔パスで入れるものなのかい?」


 洋介は静かに頷いた。


「はい……私もそうですが、普段から家族は出入りしていたと思います」


 ミカと私は顔見合わせ、無言で頷く。


 ──よし、どの過去へタイムリープし、そしてそこで何を見てくるべきか、今ハッキリとわかった。


 私は軽く背伸びをして洋介の肩に手を置き、決意を込めて彼の目を見つめた。


「──洋介さん」


 洋介は少し驚いたように私を見つめ返す。


「解決しましょう、この吐き気がする事件を!火龍さんの無念を晴らすためにも……」


 洋介は怪訝そうな顔をしながらも、私の迫力に押されて頷いた。

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