93話 第2幕 神江島家の一族 ①
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【前幕のあらすじ】
ルミとユッキーは、江ノ島の
神江島の伝承会を前に立ち寄った「
古い祠が語る物語の一端に触れた二人は、次なる謎を追い、「神江島神社の伝承会」へと歩みを進める。運命の歯車が動き始める中、何かがルミを
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6月21日 13時23分
「おぉ……キミは確か
その後ろから玉子も笑顔でついてくる。この2人なんだかんだで仲良しなんだなと思う。
ここは
神江島神社は、江ノ島の住人が居住しているエリアの奥にある。
先ほど
「あらあら、ユミちゃん。お久しぶりね」
「あっと、玉子さんこんにちは。ルミです」
「偶然ね、嬉しいわ♩元気にしてた?って、どうしたのその手は?」
「これは、ちょっと……病院で」
「あらやだ、せっかくの可愛い姿が台無しじゃないの!」
「あは、えっと……ありがとうござ……」
「事故なの?」
「あわわ、いや、」
「怪我?」
「えっと、」
「誰かの呪い??」
「え?呪い?」
玉子は相変わらず捲し立てるように喋りまくる。神崎も、負けじと私を指差しながら玉子の方を向く。
「なんだ、玉ちゃん!前にキミはこの子を知らんと言ってただろう?」
「いいえ、実はその次の日に友達になったのよねぇ?」
「あ、いえあれは」
「メッセンジャーの交換もしたのよねぇ?」
「あ……あー、メッセンジャー?登録、忘れたような……」
「でもね、聞いて、使い方がよくわからないのよ、マミちゃんからメッセージ来ないし」
「えっと、ルミです。登録、忘れたかなぁ……」
「でも、もうこんなのに字を打っているよりも直接お話しした方が早くない?」
「で、ですよねぇ」
「電話番号教えてくれるかしら?」
「えぇ?……電話?」
「何番?」
私たちの会話を聞いていた神埼が呆れた顔で口を挟む。
「おかしいな、このお嬢ちゃんは、最初から玉ちゃんのことを友達って言ってたのだがなぁ。玉ちゃん、誰でも友達にするのは良いが、忘れるのは失礼だろうが」
私は神崎に感謝の眼差しを送るが、玉子はびくともしない。
「失礼じゃないわよね?それにしても今日は何て良い日なのかしらね」
「あ、あは、ですね」
「で?ルミちゃんのお友達のお名前は何て言うの?」
横で面白がって見ていたユッキーが、え?私?とばかりにあたふたし始める。
──その時。
「え?」
突然、空気が変わるのを感じる。そして周りにいた鳩が一斉に空へ飛び立った。周囲のざわめきが一瞬で静まり、空中の鳥の羽ばたく音だけが響いていた。
「え?なに?」
私はわけがわからず、辺りを見回す。ピリピリとした異様な空気が辺りを包み込む。
ズン…ズン…と地響きのような足音が聞こえてきた。後ろを振り返ると、神職の衣装を身に
その
え? リーゼント?
そう、 その女性の髪型は昔懐かしいリーゼント風である。
「そこのお二人!!ここは神聖な神楽の儀式が行われる場所!お静かにぃ!」
女性の雷鳴のような声が、周囲のざわめきを一掃した。彼女の存在感は圧倒的で、神社の守護者としての誇りが伝わってくる。
ユッキーと私はもちろん、
女性の視線が鋭く神崎と玉子の2人を見据える。
「決まり事は、今も昔も守って頂かないと!!」
「ハイ、スミマセン。守ります。ハイ」
気のせいか、彼は恐怖で一回り小さくなっている。
「神崎さん、あなたは今日の司会ですよね?自覚を持って頂けますよね!」
「ハイ、ゴメンナサイ」
彼女はそこで一呼吸置くと礼儀正しく背筋を伸ばし、ユッキーと私に向き直る。
「──お騒がせしましたね。私はこの神社の宮司を務めさせて頂いている、
「え、あ、ご丁寧にどうも、あの、よろしくお願いします!」
思わず私もユッキーもあたふたとお辞儀を返す。近くで見ると、彼女の眼光からは、鋭いながらどこか包み込むような包容力も伝わってくる。龍の子と書いて龍子。なるほど、迫力はそのままだ。
「後ほど、会が終わりましたら青い
龍子は無駄のない動作で私たちへ一礼し、舞殿の隣にある社務所の方に戻って行った。 彼女が去った瞬間、張り詰めていた辺りの空気が一気に和らぎほどける。
ユッキーが興奮冷めやらぬといったキラキラした瞳で囁く。
「わぁ、ルミちゃん凄かったね!見た見た?髪型がリーゼントだよ。それも龍子だって!」
「ほんと、何だろうね!凄い迫力だった。昭和のお母さんみたいでカッコ良かった!」
「うんうん、そうそれ!昭和を感じたよね」
すると、龍子に怒られて小さくなっていた神崎が、再び私の元にコソコソと近寄って来て声をひそめる。
「実は龍子は、昔はこの辺りで名を馳せた伝説の暴走族のリーダーでな、当時彼女に睨まれたら生きて行けなかったのだが……まだまだあの迫力は健在だな……」
私もつられて小声で神崎に尋ねる。
「え、神崎さんは、龍子さんと昔からの知り合いなんですか?」
「まぁ、ちょっとな……」
神崎が口ごもっていると、玉子がすかさず割り込んできた。
「この人自分じゃ言わないけれどね、神埼さんも昔は伝説の男だったのよ!」
「──で、伝説の男?」
湘南の伝説の男?どこかで聞いたような……?
私は神崎に目を向ける。なぜか彼は赤面し、必死に手を振って否定のポーズを見せる。
「そーなのよ、それがね、神江島龍子と神崎敬三は苗字に神って付くでしょ?あと1人狂犬みたいなのがいたけど3人合わせて湘南トリプルゴッドって言われていたのよ」
「し、湘南トリプルゴッドぉ??」
私の頭の中にピンクのジャージにつぶらな瞳、ポッテリ唇のヒデ子ママが思い浮かんだ。
「3人目のその狂犬っていうのはもしかして、ヒデ……子ママ?」
その声に、神崎が彫りの深い眼を光らせ反応した。
「お嬢ちゃん、なぜその名前を知って……」
玉子は再び割り込んできて、紫色のサシの入ったフレームを掛け直す。
「あんな狂犬なんて神崎さんの敵じゃなかったわよ、今はマルチーズみたいだし」
──プッ!
マルチーズって……私は思わず吹き出した。
「聞いて、その昔私は三つ編みおさげでユッキーちゃん似の可憐で純粋な女学生でね、神崎さんの今で言う追っかけ?推し?そんな感じだったのよ……」
えっと、色々とツッコミたいこと満載だが、しかし、そこに目を輝かせたユッキーが入ってくる。
「伝説の湘南トリプルゴッド?ちょっとダサくて程よい昭和だよ!その話もっと聞きたい!!」
「聞きたいでしょ?彼らは地元では伝説の存在だったわ。夜の湘南をバイクで駆け抜けて、敵対するチームをバッタバッタとなぎ倒していったの。神崎さんはその中でもリーダー格で、誰もが一目置く存在だったのよ」
赤面した神崎は玉子の口を手でふさごうとするが、彼女の口は止まらない。
「玉ちゃん、もう昔の話はやめてくれ。本当に困った人だな!」
「それでね、それでね!神崎さんが初めて私をオートバイの後ろの席に乗せてくれた時の話なんだけどね──」
「えぇ?聞きたいです、聞きたいです♪」
──その時。
バァァァン!!!
どこかから大きな音が聞こえた。その衝撃に驚いた、鳩とカラスたちが一斉に飛び去る。
「!!!」
私たちは恐る恐る、その音の方向……社務所の開かれたドアの方向に顔を向けた。まるで映画の効果音のように、ゴゴゴという重低音が周囲に響き渡った。
そして、そのドアからゆっくりと現れたのは、両目をギラリと光らせた龍子の姿だった。
「お・し・ず・か・にぃ!」
「!!」
彼女の鋭いレーザーポインターのような眼光は、全てを見透かすような強烈な光を放っていた。まさに蛇に睨まれたカエル状態の私たちは、完全に硬直して固まった。その圧倒的な存在感に、再び場の空気が一変する。
「あぁ、ボクそろそろ時間だ……」
1/4くらいに小さく縮んだ元伝説の男は青い顔で、伝承会の舞殿へとそそくさと上がって行った。
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