52話 第ニ幕 ~赤いベランダの家探し~ ④
私は、若い女の子たちのその声が気になり、小さな商店が立ち並ぶ通りに向かう。
そこは昔ながらの魚屋や八百屋が並ぶ小さな商店街で、懐かしい雰囲気が漂っていた。
通りの隅で、地元の女子高生らしい3人組がダンスをしながら賑やかに騒いでいた。ネットの動画投稿用なのか、三脚に取り付けたスマホで撮影しているようだ。
ダンスを見ていると、結構難易度の高い振り付けだが、3人の息はぴったりで仲の良さが感じられる。
「初々しくて良いなぁ、楽しそう」
その時、3人組の1人と目が合った。残りの2人も私に気づくと、ダンスを中断してこちらを見た。
せっかくの楽しい場を壊してしまって申し訳なく思い、笑顔を作って声をかけた。
「あ、ごめんね。楽しそうな声につられて来たら、息の合ったダンスをやってたので見惚れていたの」
彼女たちは、恥ずかしそうな笑顔を見せながらも好奇心旺盛な様子で私を見る。
3人組の1人で、1番背が高く利発そうな子が口を開いた。この中のリーダー的な存在のようだ。
「お姉さん、観光客ですか?
「あ、うん。私はちょっとこの辺りで探しているものがあるの」
「探しもの?お洒落なカフェとかは、
「あ、それも興味あるけど、ちょっと赤い手すりがあるベランダの家を探しているの。誰か知ってる?」
赤いリュックから写真を取り出して見せると、彼女たちは興味深そうに私の側に集まってくる。小麦色の肌の一番活発そうな子が写真を受け取る。
「ホントだ、赤い手すりのベランダだ。どこかで見たような」
すると残りの1人の子が目を丸くしながら写真を指差し、2人の顔を見る。
「あれ、これって
「え?どれどれ」
「あ、そうかも!」
リーダー格の子が写真を受け取り首を傾げながら、ヒソヒソ声だが私にも聞こえる声で話す。
「万莉の家ってなんかさ、あれでしょ、ヤバいから」
「あー、ヤバいよね。万莉は良い子だけど。家はヤバい」
「ヤバい、ヤバい」
彼女たちは互いに顔を見合わせ、意味ありげな表情を浮かべた。私はその言葉に興味をそそられる。
「そのお友達の家に赤い手すりのベランダがあるの?」
先ほどのリーダー格の子が私をジッと見つめる。
「お姉さんは、何の目的でこの家を探しているの?警察の人や探偵には見えないけど」
警察はともかく探偵に見えない……これは業界的には最大級の褒め言葉なのだろうが……私の場合は少し複雑だ。改めて自分の服装を見下ろしてみる。
今日の服装は、薄いアイボリーのブラウスに同系色のカーディガン、カラシ色のロングスカートで赤いリュックを背負っている。カラシ色と赤の組み合わせが上級者コーデだと密かに自負して……
いや、それはどうでもいいのだが、うん、確かにこんな警察や探偵はいないよなと自分でも思う。
活発そうな子が面白そうに話を繋げる。
「でも、聞き込みとかする時って正体バレないように変装とかするでしょ、一番あり得ない格好をするとか聞いたけど、そんな感じじゃね?」
「普段は黒スーツでスタイリッシュにキメて、キレのある笑みをニヤリと」
「それな」
「ヤバいヤバい」
暫く私を置いて勝手に盛り上がっている3人を苦笑しながら横目で見ていた。
その時、一人が言った。
「
その言葉で場の空気が変わった。リーダー格の利発そうな子は陽奈という名前らしい。
「そうそう、ここに一緒に来る途中で万莉のスマホが鳴ってね。学校から連絡があったって、途中で引き返して行ったけど」
「あー、来年は受験だから進路の事かもよ。どうなんだろうね?」
「私達も万莉の事は言えないけどね、ダンス投稿しててヤバくね?」
私は盛り上がる3人に、万莉の家がどこにあるのか尋ねた。女子高生たちは、
「この先の坂を登って行って二股を左に行った先にある大きな家だよ、ちょっと途中の坂がキツいけどね」
と教えてくれた。陽奈と呼ばれている子が私に手を振った。
「お姉さん良い人そうだから、万莉にもお姉さんが来た事を言っておくね」
女子高生たちにお礼を言い、私は彼女たちと別れた。そして、少しだけキツい坂を登り、赤いベランダの家を目指した。
──この後、やりきれない気持ちでその坂を何度も上る事になるとは、この時の私は想像もしていなかった──
—— 第三幕「惨劇の家」へ続く。
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