51話 第ニ幕 ~赤いベランダの家探し~ ③
「ピンポーン♪」「ピンポーン♪」「ピンポーーン♪」
「あら?出ないわね……」
──私が女性に半ば強引に手を握られ、
昔ながらの木製の門で、素朴ながらも風情のあるデザインが印象的だった。門の隙間から見える家は、白と木目の外壁が和モダンな雰囲気を醸し出している。
すぐ目と鼻の先にある駅のホームには江ノ電が止まっており、車内の子供たちが好奇心旺盛な目で私たちを見つめ、親たちはやや心配そうに顔を寄せ合ってヒソヒソと囁き合っていた。カップルたちは耳打ちを交わしながら私たちをチラチラと盗み見ている。
それもそのはずで、女性は門を叩いたり隙間から家の様子を伺ったり、何度もジャンプしてみたりやりたい放題、不審者の一歩手前状態である。私はドキドキしながら江ノ電の乗客に向かい、謎の愛想笑いを振りまいていた。
「あらあら、おかしいわね。この時間はいつも家にいるはずなのに……」
女性は門を開けようと扉の取手を掴みガチャガチャと動かしていたが、その様子を見て引きまくっていた私の方を突然振り向く。
「ごめんなさいね、神崎さん留守みたいなのよ」
「い、いえ!とても助かりました。場所も分かりましたし、また後で来ます。もう大丈夫ですから……本当にありがとうございました」
女性は朗らかに笑いながら言った。
「お節介でごめんなさいね。ちなみにお名前を聞いてなかったわよね?」
「あ、そう言えば……私はル……」
「私は
彼女の言葉に、その通り!と全力で賛同しそうになるのを、ぐっと我慢しながら笑顔で応える。
「私はルミです。ここまで案内してくれて本当にありがとうございました」
「あららら、良いお名前だわ。覚えたわよ、ルリさん」
「あ、いや、ルミです」
「うんうんうん、そうね。今日はなんて良い日なの……良い事が続くわ……」
──聞いていないようだ。
「そうだ、メッセンジャーでお友達登録しない?」
「えぇ、お友達?」
「そうなのよぉ、最近私も覚えたのよ凄いでしょ。自分を褒めてあげたいわ」
玉子は紫色のフレームの眼鏡を掛け直し、ゴソゴソとバックからボールペンとメモを取り出すと、左手で何やら文字を書き始める。
どうやら何処かのSNSのメッセンジャーIDのようだ。
「あ、私ねサウスポーなの。昔、そんな歌あったでしょ。でも字も綺麗なのよ。任せてね!」
ケラケラと笑い独り言を言いながら書き上げたメモを、私に笑顔で渡す。
「ごめんなさい、こう見えてアナログなのよ。これ後で登録しといてね♩」
「え?私が登録??」
玉子は大きく頷き、両手でサムズアップをする。
「グッド!これでお友達ね!」
玉子はウフフと悪戯っぽく笑って私にメモを押し付けると、風のように……いや、嵐のように去って行った。
メモを手に唖然として彼女を見送ると、ガックリと全身の力が抜けた。
そこへ、江ノ電の発車音が鳴る。駅のホームに停車している江ノ電を振り返ると、先ほどの乗客たちが固唾を飲んでジッとこちらを見守っている。
私は彼らへ力ない笑顔を向けると、左右に大きく手を振って電車を見送った。
「はぁ……何か凄くエネルギーを吸いとられたような…」
独り言を言いながら歩き出そうとした時、ふと、何人かの若い女の子たちの声に足を止めた。
「あははは。それヤバくね?」
「ヤバい、ヤバい!!」
私はなぜかその声が気になり、そちらへと顔を向けた──
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます