42話 第十一幕 ~新たなステージ~ ③
4月16日 15時48分
目の前をアニがユッキーに引き摺られるように連行されて行く……もう一度言うが同情は出来ない。
私はレジ横の黒猫の置物を横目に、1番のお気に入りの席に移動した。
そして、壁に飾られた母の写真を眺めながら、ユッキー特製チョコブラウニーを楽しんでいた。これが私の守っていきたい大切な日常。
改めて大きく伸びをして、首をゆっくりと回す。先ほどアニにも言われたが、疲れが相当溜まっているのを感じる。身体が妙に重く感じる……なんだろう?
「あぁ、事件も解決したことだし、「ニケ」の
私は呟き、目を閉じて軽く髪をかき上げ、店内に流れるジャズの音色に身を任せる。
思えばこの1ヶ月、本当に色々なことがあった。
人によってはあっという間の1ヶ月、違う人にとっては中身の濃い1ヶ月。時間は皆に平等に与えられているはずなのに。時間ってなんだろうと、タイムリープで時を跳び超えながらも時々ふと思う。
大きな進展は、手探り状態であった母の行方に現実的な手がかりが出て来たことだ。谷中の
私は、母の写真が入っているフォトフレームをテーブルに置き、神社で微笑む写真の母に優しく声をかける。
「待っててね、絶対私が探し出してあげるから……」
写真の母が、その言葉を聞いて頷いた──ような気がしてハッとする。何度か瞬きをして確かめるが、いつも通りの母の写真であった。
錯覚でもなんでも良い、母が私の言葉に頷いてくれたのだ。私はフォトフレームを手に取り、頬ずりするように顔に近づけた。
すると、フォトフレームの中から何かがするりと落ちた。
「あれ?」
床を見ると、写真が一枚落ちていた。元のフレームを見ると、いつもの写真が入っている。
どうやら写真が2枚重なって入っていたようだ。床の写真を拾い眺めてみる。
そこには1枚目の写真同様、優しく微笑む母の姿があった。ただ、背景が明らかに違う。
「──この写真は?」
コーヒーカップを口に運んで心を落ち着かせ、改めてじっくりと見る。
ここは、どこかのベランダだろうか?赤いお洒落な手すりのベランダ、その向こうに広がる青く輝く海、そして有名なあの島が見えた。
「この島は、江ノ島……だよね?」
そして、母の足元を見て私は目を疑った。そこには1匹の黒猫が。神秘的な雰囲気の美人猫だ。
「え?この子は……」
黒猫の目を見ると、左右で色が違うオッドアイだった。
リュックの中に入っている黄色い手帳を開き、知世と彼女の迷える飼い猫が写っている写真と照らし合わせる。左右の瞳の色も一致していた。
「──やっぱりプルート!」
私は思わず叫び声を上げた。
「なぜ?お母さんとプルートが……」
それと同時に、お店のカウンターでユッキーとネットを見ていたアニが叫んだ。
「え?そんなことって──!!」
私たちはお互いの叫び声に反応して目を見合わせた。
アニが私のテーブルに走り寄り、ノートパソコンを開いて見せる。
「ルミ、このニュースの記事を見てみろ。なんてことだ」
その記事を見て私は息を呑んだ。
──江ノ
「知世さんって──あの知世さん??」
「そうだ。昨晩、江ノ島の裏の岩場で、遺体で発見されたらしい……」」
私は言葉を失った。 そんなことってある??
知世が行方不明になったのは、
「……どうして江ノ島で?」
震える声でアニに問いかける。
「いや、わからない……この記事には何も書いていない。自殺か他殺かもわからない」
スマホを手に私たちのやりとりを見守っていたユッキーが、ハッとしたように叫んだ。
「あ!」
「どうしたのユッキー?」
「昨夜って、あれだよね?満月だよ」
「──満月?」
「ルミちゃんの言ってた、谷中の猫伝説も満月の夜の話だよね?中山も満月の夜に──」
私はユッキーの言葉に目を見張ってコクコクと頷く。
「中山と同じ満月の夜に知世さんが?……漆黒の白猫はプルートで……赤いベランダでお母さんと……?」
ちょっと複雑でついていけない。突然の展開に思考が追いつかなくなっていた。
私は一生懸命説明しているユッキーの、神々しい女神のような顔をただ眺めることしか出来なかった──
—— 「
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