40話 第十一幕 ~新たなステージ~ ①
4月16日 14時33分
──
「ふぅ……」
私はスマホで流れている動画ニュースのスイッチを切る。
テレビでは朝から飽きるほど、何度も同じ映像が流れている。
テレビだけでなく週刊誌、ネットでは、多くの被害者を出したバーチャル不動産詐欺の
タイムリープでビデオを撮って来た時から結末はわかっていたが、私は芳雄の逮捕に改めて心を痛めた。今もあの公園での彼の姿が思い浮かぶ。
彼は妻の
「──姫のテストは合格だよ。これからも私の捜査の協力をお願いしたいものだね」
「あ……」
彼女の言葉で現実に引き戻された。
刑事ミカはタイムリープのチカラを実感したようで、警察の捜査報告書をアニに渡すと満足そうにカフェラテを口に含む。
ミカ、アニそして私は、写真喫茶「ニケ」の例のテーブルで報告を兼ねたミーティングをしていた。
ユッキーが淹れたミカのカフェラテには、リアルな鬼のアートが描いてあった。ユッキーなりの嫌味のようだが、ミカは全く気にすることなく美味しそうに飲んでいる。
アニは捜査報告書に目を通すと驚きの声を上げる。
「こんな綺麗にまとめてくれるなんて、ミカは意外と几帳面なんだな!」
「意外とは失礼じゃないか、次からは殴り書きにしておくよ。まぁ、読み終わったら約束通り灰にしておくれ」
アニは捜査報告書を私に渡すと、コーヒーカップを片手に眼鏡を光らせる。
「大丈夫、私たちの協力関係は信頼の上で成り立っているはずだ、こちらも約束は守るよ」
「ふふん、そう願いたいものだね……」
アニから手渡されたミカの報告書を手に取り読んでみる。それによると、私がタイムリープして撮ってきたビデオ映像を警察に見せられた芳雄は、素直に中山殺しを自白したそうだ。
──芳雄の親友の
さらに報告書をめくる。
中山が残した「シッコク」の文字は「漆黒の白猫伝説」を信じて探していた中山が伝説のように呪い殺されたのではと撹乱させるために、芳雄が書いたとのこと。
満月の夜であったし、
しかし信じ難いことに、この「シッコク」の文字の存在で実際に警察は混乱し、捜査の進展が遅れたというのだ。
ミカはその報告の欄を見ると、
「ダイイングメッセージ? そんなもの、探偵小説じゃあるまいし……第一、死にそうな人が「シッコク」なんて言葉を書くかねぇ」
と笑い飛ばした。
「そんなものより……中山の遺体を見た途端に一目散に逃げて、あっさり捕まった姫の上品な顔を見て、まずコイツは何かあると思ったのさ。犯人だとはさすがに思えなかったしね──」
ミカは私の顔を見るとキレのある笑みを見せる。協力関係になったとはいえ、彼女の笑顔は怖いし、私は相変わらずこの刑事が苦手である。
私が言うのも何だけど、そもそも警察が、タイムリープなんて本気で信じるものだろうか?
以前もとある事件で警察に関わることはあったが、幹部はともかく末端の警官や刑事は、タイムリープなんて詐欺を見るような目で見ていたものだ。
私はミカを試すように聞いてみる。
「刑事さんは、タイムリープなんてSF小説みたいなチカラを信じるの??何かの
ミカはカフェラテを一口飲み、鼻で笑って答える。
「この仕事をしてるとさ、私が信じるとか信じないとは別に、やれ幽霊だの宇宙人だの未来人だの、この世には説明のつかないことがあるって良くわかるんだよ」
彼女は私たちを交互に見ながらソファーに深く座り直し長い足を組む。
「どんなことでもまずは話の半分でも仮定の一つに入れないと
アニと私は意外な思いで顔を見合わせる。何だろう……ミカは思ったよりも柔軟性があるみたいだ。
私は報告書をファイルにしまいアニに返す。アニは、ミカに聞こえるように声を張り上げ、先日のテストについて私に話す。
「それにしても、中山の事務所前での出来事は予想外だったね、そこが指定の場所だったなんて……ルミが過去の自分と鉢合わせしなくて本当に良かったよ。話を聞いて肝を冷やした」
ミカは淡々と、涼しい顔でカップを口に運ぶ。
「同じ時間軸に同一人物が3人、何かのチカラがそれを嫌がり姫を強制的に排除しようと、歴史を捻じ曲げたって?怖いねぇ」
命懸けのテストになったが、ミカはまるで他人事だ……ちょっと頭に来る。アニはミカを軽く睨みながら両手を広げる。
「本当だよ、ルミはよく帰って来てくれたよ。実はマユってヤツが何か操作したのかも、とも思うね」
そう言えば、あの騒動に乗じて公園から走り去る時、マユはベンチに座り静かに私を見ていた。もしや彼女は、私が公園に入った時から監視していたのだろうか?
見物に来たとは言っていたけど、彼女の本当の意図がわからない。
ミカはアニの話を聞くと片方の眉を持ち上げ、ボールペンを取り出してそのことをメモをする。
「そのマユってヤツ、こちらも素性を捜査してみるよ……
そう言うとミカは立ち上がり、後ろ姿に片手だけをあげてサッサと店を出て行った。
「どうもありがとうございました♪またのご来店お待ちしてまーす」
ユッキーは、彼女の後ろ姿に向かって思い切り舌を出しながら手を振っている。ユッキーの、こう言うトコが私は大好きなのだ。
その姿を見てアニと私は苦笑した後、同時に大きなため息をついた。
「──ルミさ、本当にお疲れ様。まさか黒猫探しから殺人事件に巻き込まれてこんなことになるなんてね、この機会に少し休むと良いよ」
「うん、そうさせてもらおうかな。この前の公園の件あたりからかな、ちょっと身体も重いしね。タイムリープの影響なのかな?」
「かもしれないな、代われるものなら代わってあげたいけどね……タイムリープって映画とか小説と違って身体に負担がかかるのかもな」
「アニはさ、タイムリープで過去に跳ぶの……興味ある?」
「俺がタイムリープか……」
アニは一瞬遠い目をした後、笑顔を作って私に頷いた。
「──ちょっとだけな……」
アニは親友である私の母のことを語る時、いつも決まってこの遠い目をする。今、確かに母のことを考えたのだと思う。彼の視線の先には何が映っているのだろう?
私は
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