38話 第十幕 ~試される運命~ ⑤
3月08日 24時23分
腰を低くして警戒しながら進むと、公園の案内板があった。現在地から見ると、少し先の東側出口が最も近い。そこへ向かうことにする。
遠くで警察のハンディライトと中山が誰かを追うような叫び声が聞こえる。過去の私は無事だろうか?不安が胸を掠める。
辺りを警戒しながら前へと進む。すると突然人影が現れた。
「ひゃっ!」
先ほどの過去の私のように悲鳴を上げる。一体何度驚けば良いのか?この公園はもはやお化け屋敷のようだ。
よく見るとその人影は、先ほどまで酔っていた芳雄の知人であった。彼も私の悲鳴で驚いたようだ。彼は息を整え私に話しかける。
「──あぁ、君か無事で良かった。さっきは芳雄のこと、ありがとう。おかげでアイツは無事、救急車に運ばれて行ったよ」
彼はすっかり酔いが冷めているようだ。私は警察と中山の気配に怯えながらも、彼の言葉に安堵する。
「あぁ、それは良かった」
「芳雄も酔ってたからね、中山に蹴られた肋骨が心配だけど、救急員の態度から見ると大丈夫そうだよ」
「本当に良かった。死ぬかもしれないって思ってたから」
彼は、少し涙ぐんで頷いてから私を見た。
「それより、君は訳ありだよね。芳雄の恩人だし、理由は聞かない。ここから誘導してあげるよ。この先の東出口は警察でいっぱいだよ」
「えっ本当?ありがとう。もうどうして良いかわからなくて……」
「君そっくりの……双子の妹か姉かは知らないけど、先に逃したから安心して」
双子の妹か姉?……良かった、過去の私はどうやら無事に逃げたようだ。
「俺は吉岡、ここは子供の頃からの遊び場だったからね、一応詳しいよ。こっちだから付いて来て」
吉岡と名乗った男は花壇から草むらに入っていく。彼はまるで自分の庭のように、巧みに警察を避けながら道をかき分けていった。
24時34分
私たちは、公園の中央にある池までやって来た。
そこまで大きい池ではないが、この施設の見どころの一つで綺麗に管理されている。
池の反対側では、警察の何本ものハンディライトが獲物を探すように動いている。
吉岡は辺りを見回しながら、池の側の木の陰に建てられた古い施設に辿り着く。
私も遅れて建物を囲む鉄柵まで辿り着くと、吉岡の方を見る。
「──ここは何なの?」
吉岡は鉄柵を丹念に調べてポイントを見定めると、足で思いっきり蹴る。鉄柵の一部がドアのように開いた。彼は私の方を振り向くと笑顔で答える。
「子供の頃から使ってた、秘密の通路なんだよ」
周りを再び用心深く見回し、吉岡は柵の中に入っていく。私も続いて中に入ると、下に降りる階段がある。
「ここは用水路を管理している部屋に続いているんだが、その部屋から公園の職員用出口に繋がっているんだ」
そう言うと吉岡は階段を下っていく。この管理施設も築年数が経っているようではあるが、メンテナンスが行き届いているのか汚い感じはしない。
階段を降りると扉があり、関係者以外立ち入り禁止と書いてある。彼は扉のドアを回す。が、ドアノブが途中で止まり、動かない。
「──カギが掛かっているよね?」
私が心配そうに言うと、吉岡は得意げにニヤッとして、両手でドアノブをガチャガチャと上下に動かす。カチッと音がしたかと思うと、ドアはあっさり開いてしまった。
彼は親指を立てサムスアップすると一言。
「大丈夫、ここは僕らの秘密基地なんだ」
そう言うと、吉岡は先に施設に入って行った。注意深く辺りを見回す。不安は残るが他に逃げる手がない。
私は意を決して、吉岡の後を追って中に入ると扉を閉めた。
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