33話 第九幕 ~母の手掛かりと私の覚悟~ ③
4月10日 10時07分
桜の季節を過ぎた市ヶ谷の外濠公園は、祭りの後という感じで、すっかり落ち着いた雰囲気だ。時たまジョギングをする人が一人二人通りすぎてゆく。
辺りを見ると、桜の花びらが舞い降りた跡はもはや見ることができなかった。代わりに若々しい青葉が太陽を浴びて輝きを増してとても綺麗だ。
──今朝早く、ミカからテストの日時を知らせるメールが送られて来た。
寝ぼけ眼で目を通した私は、計画通り過去に跳ぼうとここに来た。そして改めてメッセージの指定の場所と時間を見て、愕然としていた。これってイジメだろうか?信じられない……。
指定の日時:3月8日 23:30頃
指定の場所:
「──これ……私が中山と対峙した日時と場所だ……」
辺りには、都会の公園らしくJR
私は暫く公園沿いの手すりに背を向けて空を見上げ考える。
「あの日の私と鉢合わせしないためには……」
頭の中で、過去の私と鉢合わせする事態を色々と考えてみる。鉢合わせとは、すなわち過去の私が私を見て「私だ!」と認識することだ。
あの日の私は確か、事務所のお手洗いで昼間にタイムリープをし、同日の23:35頃へと跳んでいる。
中山の部屋でバーチャル不動産の資料を撮影した後、店内であの中山と対峙する。そして事務所の扉をタックルで開けて外に出て、公園沿いを走り去った。
まず、過去の私が事務所内にいる内は安全だ。私が事務所に行かなければ良いのだから。リスクがあるのは24:00に公園横を走り抜けるほんの一瞬だけ。
『──過去の私と鉢合わせする可能性は無いはずだ。ただ……もし……万が一』
赤いリュックからアンティークな二眼カメラを両手で取り出し、ファインダーを
もう一度ミカから送られたスマホのメッセージを確認する。
ミカからすれば、テストの内容は過去にタイムリープをして、ビデオを撮るだけ。簡単な実技試験を提示したと思っているだろう……私が100% 課題をクリア出来ると確信していると思う。
ただ、多分……このテストの目的は実技ではないと思う、私の覚悟を見極めることだ。彼女が求めるミッションを遂行しようとする私の覚悟。
──覚悟がないと判断された時は、利用価値がないと見なされ逮捕されるのかもしれない……
──身震いして大きく首を振る。
ミカはタイムリープのリスク、過去の自分と鉢合わせしてはいけないと言うルールを知らないはずだ。そうでなければこんなリスキーなテストは出さないだろう。
いや、あの刑事なら例え知っていても情け容赦なく難題を突きつけるかもしれない──
しかし、どちらにしても私たちには、過去に跳ばないという選択肢はないのだ。そういう取引だ。先日の取引は、アニの言う通りミカが圧倒的に有利なんだと実感……。
「とりあえず、3月8日にタイムリープしてみよう──」
辺りを見回す。空間の歪みが起こる気配は感じられない。よし、大丈夫だろう。
人気のない場所を探し、改めて二眼カメラを両手で構え呼吸を整え、3月8日をイメージする。
カメラの上部にあるカバーを外すとファインダーが現れる。ファインダーには現在の光景が映し出される。
「
と叫び、決意を込めてカメラのファインダーを覗くと青白く輝き過去の風景が映し出された。
もう一度用心深く周りを見回す。何事もないことを確認すると軽く頷く。
「──お願い!」
と呟きながら特別なシャッターを切る。
カメラから不思議な光が放たれ、風の様に吹き荒れながら私の身体を包み込み、タイムリープが始まった──
—— 第十幕「試される運命」へ続く。
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