26話 第七幕 ~時空の狭間~ ③

4月01日 14時46分


 谷中の古い木造住宅が建ち並ぶ細い路地。道の真ん中で三毛猫が2匹仲良く遊んでいる。そして電信柱から伸びる電線が時々パチパチと音を立てていた。


 3年前に出会った知世と芳雄、そこに中山が何かしら絡んでいるのかもしれない。──そう考えた私は、3年前に跳び彼らの身辺を探ろうと考える。


 浜田家の飾り棚の上にあった猫型のフレームには、写真を撮影した日付が書いてあった。その数字をしっかりと覚えている。


──タイムリープはとても便利なチカラだけど、リスクを知ると諸刃もろはの剣って感じだ。使い所を絞って行かないとね──


 昨日アニから言われた言葉……確かにその通りだと思う。ただ、使い所を絞った結果、使うならココしかないと思う。世間に中山のことが知られるのは時間の問題だ。


──アナタにはタイムリープを使い過ぎるなと忠告したわよね?このあたりの空間の歪みが大きくなっている、危険な兆候が出始めているのよ──


 マユの警告だ。危険な兆候……?昨日のあの不思議な体験のことかもしれない。本当に注意していかないといけないようだが……


 私は人気のない公園の片隅で、赤いリュックからアンティークな二眼カメラを取り出す。


 呼吸を整え、今から3年前をイメージする。カメラのファインダーを覗いた。


 私は軽く頷く。


「真実を!見極める!!」


と叫び、決意を込めてカメラのファインダーを覗くと青白く過去の風景が映し出された。


 再び、


「お願い!!」


と呟き、特別なシャッターを切ろうとすると……


──何か違和感いわかんをおぼえた。いつもと何かが違う。


 辺りを見回す。何かが変だ。


 足下、地面の底から地獄の門が開くような地響きが聞こえる。いつか動画サイトで見た「終末の音」のようだ。


 再び辺りを見回すと、昨夜「ニケ」で見たような光景が広がる。


 街の風景が色褪せ、壊れた蛍光灯のように点滅しているかに見えた。風で揺れる木々や草花が壊れたビデオテープのように同じ動きを繰り返す。


 地面から聞こえる恐ろしい地響きのような音が大きくなる。


「えっ?!」


 マユの言葉を思い出す。


「──空間の…歪み?」


 すると突然私の視界が真っ暗になり、意識が遠のいていった。


 ──私は宙に浮いているかのような感覚に襲われる。どこにも捕まる場所がない不安定な感覚、そして意識の中に様々な感覚が通り過ぎる。


 時間の歪みの中で、過去と未来が交差し、時空の狭間はざまが私を翻弄ほんろうする。流れる光と影、あらゆる方向からかすかに聞こえる未知のささやき。


 全てが混ざり合い、不思議な光景が繰り広げられる。大きいものが小さく、小さいものが大きくなり、硬いものが柔らかく、柔らかいものが硬くなり、全てが溶けて全てが固まる。


 私の身体も無限に広がり無限に縮む。全ての記憶が溶け出して、私が私でなくなる。


「あぁ、私が……消える──」


 突然、月の光のような輝きが私を照らす。


──そしてどこかで猫の鳴き声が聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る