25話 第七幕 ~時空の狭間~ ②
4月01日 14時25分
中山と芳雄にも何かしらの繋がりがあるに違いない。そう考えた私は、アニにバーチャル不動産の名簿を調べて貰おうとスマホを取り出す。
アニは電話越しに即答する。
「今ちょうど名簿の整理がついた所だったけど。うーん、
「そう……ちなみに
「うん、これも残念だけど無しだね。何人か高齢の知世さんはいたけど。今の時点では、あの夫婦はバーチャル不動産に絡んではいないと思う」
「わかった、ありがとう。──それじゃ、他の線を探っていかないとなぁ……ところで」
アニが咳払いして話し出す。心なしか声色が硬い。
「ちょうど良い。先ほど入って来た情報だけどね。バーチャル不動産の別の件で少し気になる事があってね」
「──何かあったの?」
「今まで、中山の事件ってメディアで報道されてなかったよね?」
「アニ、前も言ってたよね?その後も報道されてないよね?報道規制?」
「警察側の圧力があったのだと思うけど……最近さ、週刊誌系がね」
「何かあった?」
「どうやらバーチャル不動産詐欺について独自に嗅ぎ回っているようでね」
──暫く書類をめくる音が聞こえる。
「えっと、これこれ。ルミの撮った写真の中に契約書もあったので
「──酷いね……結局お金戻ってこないの?」
「……これはマスコミの大好物なネタだよな。でね、これと同じような記事が週刊誌で出ると言う情報を掴んだわけ」
「えぇ?」
「多分、詐欺にあった被害者が週刊誌に情報を流したのだと思うね」
「それって……もうすぐバーチャル不動産詐欺のことと一緒に、中山が殺されたことも世間に知られるってこと?」
アニが電話越しにため息をつくのが聞こえる。
「──時間の問題だと思う」
「それじゃ、中山の事務所に侵入した時のあの写真も……」
「昨夜は、その写真がミカ以外に知られていないと言ったけど、週刊誌が出た後でいつまで持つか……週刊誌やテレビが騒げば、警察も今まで通りには出来ないと思う──ルミ、最近周りに怪しい人はいない?」
私は辺りを見回してみる。谷中の古い木造住宅が建ち並ぶ細い路地。
道の真ん中で三毛猫が2匹仲良く遊んでいるのがみえるだけだ。電信柱から伸びる電線が放電しているのか時々パチパチと変な音を立てている。
「うん、大丈夫。今は誰もいない」
「そうか……まぁ、あれだ。ルミはどう思うかわからないけど、この不利な状況を覆すカギはミカかもしれない」
「アニは、あの刑事を結構買っているよね?」
「──まあね、昨夜も言ったけど、ルミのチカラをミカが直接見たのであれば、あの刑事は向こうから何かアクションを起こすはずだ」
「アクションって、取引のこと?」
「そう、彼女が警察組織の中でも本当に一匹狼であるならば、取引して来る可能性は高いよ。私たちから見たら
「もし、ミカが一匹狼でなければ……」
「ルミが心配している通りになる。チームにあの写真がシェアされて、中山の事務所の不法侵入で逮捕。取り調べではタイムリープの事が知られる」
「……」
「その前に週刊誌が本気で動けば……」
そうなった時を想像して、私の顔から血の気が引いていく。アニは一呼吸入れると重い口調で答える。
「──少なくとも、今までの日常はなくなるだろうな……」
今まで結果的にアニの約束を破ったり無茶をしたりして真犯人を探してきた理由の一つ、それを彼から聞かされると、一気に現実味が出てくる。
「──今までの……今までの日常がなくなる」
アニやユッキー、お店の常連さん、商店街の人たち。コマルママの顔が思い浮かぶ。
私の一番心落ち着く場所や人たちと一緒にいられなくなる……そして母の行方を探す手段がなくなる。
私は小さな声で、アニの言葉を何度も繰り返す。私の様子が変だと感じたのか、アニが電話口で諭すように言う。
「だから、ミカと接触しそうな時は連絡して欲しい。くれぐれも無茶はしないでくれよホントに」
私は震える手でスマホを切る。
「──ミカと会う?」
仮にミカからの呼びかけに応じて、出ていって安全でいられるのか?
軽い頭痛が起こり始めたので、目を閉じて頭を何回か振ってみる。
「やだよ……考えなきゃ、なんとか……なんとかしないと」
焦る私の思考を邪魔するように、頭の上を走る電線がパチパチと変な音を立てていた。
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