11話 第四幕 ~遡る時間の糸~ ①
——もし過去の自分と目が合ってしまったら……この時間軸のあなたが、あなたを認識してしまったら、この世からあなたは消えてしまうの。あなたのタイムリープは危険すぎる──
突然現れた謎の女性、マユの忠告を受けて私は考えた。
「中山の遺体が発見された日に
そこで作戦を変更し、タイムリープで谷中で浜田夫妻と初めて出会う前日にタイムリープをした。
3月12日 10時35分 < 元の時間軸から−16日 >
この日の私は、神楽坂でアニから別の依頼を受けていて少なくともこの谷中にはいないし、もちろん殺害された中山は生きている。
実際に中山の行動を監視して、彼に接触する人たちを調べ、彼が殺害されるきっかけがわかればと思う。まずは、彼の不動産事務所を調べてみてみよう。
中山の不動産事務所は、以前の聞き込みで一回訪れたが、東京メトロの
事務所はガラス張りで物件情報が外から見られるようになっている。物件情報との間に隙間があり、中が見えるので何気なく覗いてみた。
「シンプルながらお洒落な作りだな…これが今どきの不動産屋ってやつなのね」
そこには中山らしき人物とスタッフが奥のカウンターでパソコンに向かっている。
ビルの辺りを見回してみると、雑居ビルの向かいには公園があった。池や滝もあるちょっとした大きさの公園で、歩いてみると事務所の様子を見張るのにちょうど良い場所が何ヵ所かある。
今日は、チェックのワンピースに四角い伊達メガネを掛け「読書に勤しんでいる文学女子」を装って、実際に事務所の出入りがどれくらいあるのか探ってみることにする。 ここは私の
「うん、あそこが一番ちょうど良いかな」
張り込みにちょうど良いベンチがあったので、そこに何気なく座る。膝丈のスカートが軽く揺れ、木々の間から差し込む日の光が心地よく肌を温める。
事務所は部屋情報を見ながら中に入っていく学生もいれば、何かの打ち合わせなのかスーツを着たビジネスマン、どういう用事なのか着飾った美女もいた。
「え?あの人……」
私は伊達メガネを掛け直し、事務所に入っていく着物姿の女性を凝視した。
「あれは、スナック
彼女も中山の知り合い?まぁ、スナックのママとこの街の地主と知り合いなのは不思議ではないけど……。
「──でも裏通りにお店を構えているのに、結構景気は良さそうなんだ……」
先日の聞き込みでも感じたが、中山の影響力は大きく、評判は悪くとも彼との接触を避けることができない人々がたくさんいるようだ。
事務所を訪れた人々の中で特に目を引いたのは、3人の黒スーツの女性たちだった。彼女らが事務所に入るとすぐに、窓のカーテンが閉まり中の様子が見えなくなった。
その後彼女らが出てきた時には、中山はどういうわけか不機嫌そうな顔をしていた。
「うーん、あれはどんな繋がりなんだろう?」
彼が複雑な人間関係を持っていたことを知り、私は更に深く探る必要があると感じた。ベンチに置いた赤いリュックを見る。中にはアンティークの二眼カメラが入っている。
先日のマユの忠告を思い出す。
──タイムリープ先の自分と鉢合わせにならないこと。人を助けたりといった干渉をしないこと。タイムリープを繰り返さないこと──
うーん、結構な制限だ、今まで犬猫探しでやらなかったのが奇跡だとつくづく思う。 漫画や映画とかのタイムリープはもっと自由だった気がするけど……
そもそもタイムリープを繰り返さないって言うけど、実際、何回くらいが目安なのか見当もつかない……
ただ、この事件の真相を解き明かすためには、タイムリープのチカラが必要だ。マユの忠告は聞いてはおくが、まだそこまでは──大丈夫、と私は自分に言い聞かせる。
明日の夕方には、浜田夫婦の話を聞くために過去の私がこの谷中に現れる。鉢合わせは避けなければならない。 風で髪が揺れ、リュックのストラップを軽く撫でるように持ちながら自分に言い聞かせた。
──それなら、もっと過去へ行くしかない。
私は赤いリュックから、再び二眼カメラを取り出した。
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