かわたれどき

 明け方の淡い光の中で幻想を見た、かも知れない。

 その人は窓辺に立っていた。ベランダに出られる掃き出し窓の外はまだ朝が明けきっておらず、カーテンが薄青くぼんやりと光るのを背にしている。不思議と怖い感覚もなくて、どちらかと言えば安心したような心持ちにさえなった。

 彼はどこからかサッカーボールを取り出した。軽々とリフティングをして、膝や爪先でボールを操り、曲芸のように胸や腕でボールを弾き、さらに軽快なヘディング捌きを披露した。私は、なぁんだ、塚元くんてば何も心配いらないじゃないか、と思った。

 その影は引き続きリフティングを披露していたけれど、見ている途中で「おやっ?」と思った。ないのだ。その人影に、首が。

 よく見ると彼がリフティングしているのはボールではなく生首で、それは見間違うはずのない塚元くんの生首なのだ。

「やめて!」

 私は叫ぶ。影の動きは止まらない。

「やめて! やめてやめて!」

 叫ぶ。塚元くんが、壊れちゃう。止めなくちゃ。


 はた、と目が覚めた。部屋の中は薄青い光に包まれた早朝だ。耳を澄ます。すう、すう、と呼吸音がする。良かった、塚元くんは無事だ。

 起きたら塚元くんに話して聞かせようかな。それとも、嫌がるからやめた方がいいかな。そんなことを考えながら寝返りを打ち、そのまま二度寝へと漕ぎ出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る