故郷

 実家から小包が届いた。年末年始に帰郷できるかわからないと伝えてあったので、それを心配して送ってきたようで、私は少し申し訳ない気持ちになる。

「数日くらいひとりでも平気だから。行って来たら?」

 塚元くんはそうは言うものの、塚元くんは最近本当に良く食べるし飲む。私が居なかったら餓死してしまうのではと心配になる。だから、そんなに長く家を空けられる気がしないのだ。

 オムライスをスプーンに乗せて塚元くんの口へと運ぶ。ぱかりと口が開いて吸い込まれていくオムライスは何となくのレシピで作ったものだったけど、それなりに美味しく出来ていた。

「美味い!」

「それは良かった」

 料理に感想を言ってくれる存在があるのは心地よい。何か些細な事柄でも自分を肯定してもらえると、ちょっとずつ自分がレベルアップしているような気がしてくる。そのちょっとずつを積み上げて人は自我を保っていくのかも知れない。

「これね、さっきの小包にお母さんが入れてくれた調味料を使っているの」

 私は地元の小売店が作っているローカルな調味料の名前を言う。実家にいた頃はお母さんがよくこれを使って料理を作ってくれたものだ。言わば故郷の味。と言うほど大げさでもないけれど。

「そう……か」

 塚元くんは少し考える顔になった。私はもうひと匙掬ったオムライスを手にしたまま、塚元くんの次の言葉を待つ。オムライスの湯気が細くなっていく。

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