灯り

 新幹線は夜半の東京駅に静かに滑り込んだ。改札口で美咲と別れて、行きと変わらない重さのピクニックバッグを肩に掛け直し、反対の手で小ぶりのトラベルバッグを引いて歩く。ローラー付きのトラベルバッグにピクニックバッグを乗せて引いてしまえば楽なのは分かっているのだけど、万が一を考えると、思い切れない自分がいる。

 マンションに続く坂道を歩く。だらだらと長く続くスロープは越してきた時と変わらず、ハナミズキの紅い葉を歩道にまき散らしながらこの秋を謳歌している。

「塚元くん、起きてる?」

「……何だよ」

 呼びかけからややあって返答がした。きっと眠いのだろう。自分で動いてこそいないものの、この二日間で処理した情報量はそこそこあっただろうから。

「楽しかった? 旅行」

「……楽しいとか、そういうもんでも無かっただろ」

「そうかな?」

「そうだろ」

 マンションの街灯が視界に入る。帰宅、してしまう。二人で。二人? 二人、なのかも知れない。今更ながら不思議な気持ちになる。私は楽しく感じたんだけどな、この旅行。などと口には出せなくて飲み込んだ。その代わりに、聞きかじった何かのセリフが口をつく。

「ご覧、あれがパリの灯だ」

「……いや、俺、飛行機じゃないし」

 あはは。そうだ。これ、飛行機で何かした人のアレだった。

 笑い声は深夜の歩道に転がるように鳴り響く。

 ねぇ、塚元くん。楽しかった? 私は楽しかったよ、とっても。

 聞いたら何かが終わる気がして、私は心の中でだけ、そう言った。

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