選択

 宿泊先のホテルの部屋で妙な高揚感の中なんとか眠り、翌朝、早い時間に宿を出た。駅のコインロッカーにトランクを預けた私たちは、記憶をたどりながら例の神社への道を思い出す。

 もう何年も前の記憶だし、神社の名前すら曖昧だった。昨日の夜にスマホで検索を試みたものの、観光地として栄えているこの辺りは神社の数も多く、どこも「霊験あらたか」を謳っているためそれなりに見えてしまう。

「ここじゃない?」

「ご利益万能……」

「こんな外観だったか?」

「……たしかに、こんな手水場じゃなかったかも」

「ここは? 狛犬がこんな顔してたような……」

「そもそも狛犬いたっけ?」

「普通はいるでしょう!」

 意見は全然まとまらない。とにかくもう、それっぽい神社に全部行ってみようなどと結論付けていくつかの神社を回ったけれど、記憶と完全に合致する場所には行き当らなかった。

「……もう三時になるじゃん」

 肩にかけたピクニックバッグの中から控えめな声で塚元くんが言う。さんざん眺めた神社のサイトには、だいたい三時から四時で閉門すると書いてあった。

「どうする?」

「どうって」

「……帰ろっか」

 疲れてしまったのか、美咲はすこし不機嫌そうな表情をしている。うーん、と私は迷う。ここまで来て諦めるのはくやしいけれど、そもそもこれって必ず達成するべきことだったっけ。運よく神社が見つかったとして、私はそこで何をどう祈るのか、まだ決めていない。

 木枯らしが吹いて「おだんご」と書かれたのぼりが揺れている。温かいお茶、飲みたいかも知れない。

 たっぷり迷って、それから私は口をひらいた。

「お茶して、帰ろっか」

「……いいのかよ」

「いいんじゃない?」

 だって、そうなのだ。ここまで探しても見つからないということは、きっとそういう事。

「いいの。帰ろ、みんなで」

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