子供の頃、新幹線は違う世界に連れて行ってくれる、魔法の乗り物だった。飛行機とは違って車窓からの景色がしっかり見えているせいなのか、速度がゆっくりのせいか、いま自分が日常から離れているんだと実感する。

 美咲と私は新幹線に揺られている。まさかこの車両の誰も、膝の上に乗せたピクニックバッグの中に生首が入ってるとは夢にも思わないだろう。

「塚元くん、どう?」

 美咲がコソコソと身体を寄せてくる。私はバッグに乗せてあるストールを薄っすらとめくってみた。

「……どう?」

「……話しかけるなって。怪しいだろ?」

「誰も気にしてないよ」

 出発は夜で、新幹線は空いていた。乗客は皆どこか疲れたような気配を帯びている。急遽決まった旅だったので、慌ただしく宿を取り、切符を手配して飛び乗った私達だけが少し異質で、妙な高揚感があった。

「名物のご飯くらいは食べたいね」

「テイクアウト出来ればいいけど」

 ボリュームを抑えて交わされる会話に、塚元くんは呆れ顔をしている。

 走行中の新幹線の中から見上げた夜空はすっきりと晴れていて、中途半端な形の月が、貼り付くように白く光っている。車内販売のコーヒーを買おうと話していたのに、すっかり忘れていた。

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