飾り
塚元くんは私のつける香水に敏感だ。気分によって使い分ける数種類の香水を、なかなか的確に嗅ぎ分ける。
「今日なんか森っぽい匂いする」
「今日は雨っぽい」
「なんか女~って感じの匂いがする」
感想はともかく、ひょっとしたら感覚器としての鼻が発達したのかも知れない。たしかに、言われた通りの香りを纏っているのだ。ハーブ系の香り、アクア系の香り、花とスパイスの香り。
職場はそれなりにやりがいはあるものの、それなりにストレスも多く、出勤前はどうしてもそれなりに張りつめてしまう。そんな自分が元気を出せるよう鼓舞したり、逆にマイペースを取り戻せるような香りで落ち着かせたり、私は私の身を香水で着飾る習慣がある。
「……今日、なんか懐かしい匂いがするな」
だからそういわれた時、とても驚いたのだ。これは私が持っている中で一番長く付き合っている香水で、初めて身につけた時は高校生の頃。そう、ちょうど修学旅行のあの時の、少しでも印象に残りたくてほんのちょっとだけ背伸びした香りを、耳の後ろにこっそりと擦りつけた、あの香り。
あの時のオーデコロンの香りはすぐに消えてしまったけれど、一番届いて欲しい人には、どうやらきちんと届いていたらしい。くすぐったい気持ちになりながら、それでも、それを嬉しいと思った。
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