たぷたぷ
実はちょっとストローを渡すんじゃなかったと思っている。少し冷ました紅茶を、カップから自分で飲めたら良いだろうなと思った。私がカップを傾けるタイミングじゃなくて、好きに飲んだ方が、塚元くんも気が楽だろうと。
「おかわり」
「また?」
空になったカップを前にした塚元くんが言う。この頃、塚元くんはよく飲むし、よく食べる。
「そんなに飲んだらお腹たぷたぷになっちゃうよ」
「平気」
腹、無いから。
ヘラヘラと減らず口を叩くのに反して私の気持ちは暗く澱んでいく。塚元くんが飲んだもの、食べたものはどこへ行っているんだろうか。どこからも排出されないし、何も残らないのだ。はじめのうち、これは便利だなと思っていた。例えばこれが、口に入れたものがそのまま出てきちゃうとかだったら、それはそれで結構大変なことになっていただろうから。
一度、塚元くんの首の切れ目のところを覗こうとした事がある。
「えっち」
端的に非難されて、こちらが赤面して終わってしまった。生首には生首の叙事というものがあるのらしい。以来、底の面は覗かないように気を付けている。
美咲の所にいた生首はある日唐突に消えてしまったのだと言う。そう聞くと、塚元くんの口にしたものが消えているのも不思議ではない。彼はどこに消えたんだろう。塚元くんも消えてしまうのだろうか。消えるとしたらどこに? 何もわからない。
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