椿
仕事帰りの歩道の植え込みには、いつの間にか椿が咲いていた。艶のある硬そうな葉の上に、濃いピンク色の八重の花が、いくつもいくつも乗っている。椿の花を見かけるたびいつも新鮮に驚いてしまう。この花、この季節に咲く花だったっけ。
植え込みの足元にも同じ色をしたものがぽつぽつと落ちていた。昨日の夜に降った雨は店に客を連れてきたけれど、椿の花には少しばかり強すぎたようだ。足元に落ちた花はしばらく新鮮さを保ったあと、静かに枯れていく。でも、と思い返す。枝から落ちずに咲いている分だって時期がくれば結局は枯れてしまう。それとこれは何が違うのだろうか。
ゆっくりしゃがんで地面から花を拾い上げると、そのまま手のひらに乗せて歩き出す。早朝の街は人が少なくて、すれ違う人はみんな眠そうな顔だ。
カンカンカン、と音を立てて階段をのぼる。あの男は起きているかな。花は好きだろうか。皮の鞄越しにママの作ってくれたおむすびの熱が、ぼんやりとお腹を温めている。
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