額縁

 店の壁には額に入った絵が飾ってある。うねうねした植物っぽい模様の額の中にはどこかの湖の油絵が飾られていて、私はそれを見るたび、この前訪れた湖のことを思い出す。

 開店前、その額縁に溜まった埃をそっと拭き取っていると、お店のママがふわふわと笑った。

「ミサキちゃん、最近ちょっと変わった?」

「……そうですか?」

「えぇ。なんだか楽しそう」

 楽しいかと聞かれたら良くわからない。わからなくはあるけれど、実は最近、食べた物を吐いてしまう回数が減りつつある。最初は篠崎さんの部屋で食べたプリンだった。あれは柔らかいものだから、負担が少なかったのかと思ったけれど、和菓子屋さんで買ったお菓子も、コンビニのサンドウィッチも、私のお腹にすんなりと納まった。量は少ないものの、あの男が嬉しそうに何かを口にするたび、それはとても美味しいもののように映った。真似して口に運んでみると、実際とても美味しく感じられるのだ。

「ママさん、今日、おむすび作ってもらってもいいですか?」

 先輩ホステスたちがそんな風に、閉店後に持ち帰る軽い食事をねだっているのを何度か耳にしていた。

 あら、と目を丸くしたママが艶のある唇を吊り上げる。

「具は何がいい?」

 あの男の好きなおむすびの具は何だろうか。

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