篠崎さんは大ぶりなピクニックバッグを抱えて現れた。学生みたいなピーコート。タータンチェックのマフラーを合わせているその姿は、私をたちまち学生時代に引き戻すようだった。何も知らない、何も怖くなかったあの頃の気持ちで、私たちは都立公園の入り口に立つ。

「お待たせ、寒いね」

「途中で何か飲み物買おうか」

「ポットの紅茶で良ければ持って来た」

「すごい! 準備万端!」

 案内板を見てから、空いていそうな広場を目指して歩き出す。そこそこの広さがある人造湖の周囲を歩きながら私は背中のリュックを気にする。リュックの中のあの男は、今頃どんな気持ちでいるのだろうか。


 ピクニックバッグの中から姿を現した塚元くんはニット帽を被っていた。万が一何かにぶつかっても衝撃が少ないようにと、ブランケットや、ハンドタオルなんかを詰めて来たのだと言う。

「……暑かった」

「うわ、ごめん」

「でも外はずいぶん涼しいな」

「そうだね、もう冬かな」

 二人のやり取りは側から見ても平和以外の何者でもない。あの空気感、もはや老夫婦の域なのでは。降ろしたリュックの中からそっと男の生首を取り出すと、二人が息を呑むのがわかった。

「ごめんね黙ってて。私にもいるの、生首」

「これは驚いたな。てっきり捨てられるんだとばかり」

「お望みならそうするけど」

 男の生首と言葉を交わしていると、なぁんだ、と篠崎さんと塚元が声を合わせる。

「どうりて驚かなかったわけね」

「俺だけじゃなかったのか!」

 それから四人は原っぱに広げたブランケットの上で、お菓子を食べてお茶を飲んだ。お菓子はあの和菓子屋さんで買ったカフェオレ大福というので、これを合わせるのは紅茶なのかコーヒーなのか、それとも緑茶やほうじ茶なのか、そんなことを真剣に悩む時間はあっという間に暮れていく。妙に和やかな対面で、こんな時間がいつまでも続けばいいのにと思った。

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