湖
美咲の携えて来た紙袋の中身はガラス瓶に入ったプリンだった。小ぶりな瓶を三つ取り出しながら、週末に遠出してきたのだと語る。
「湖の周りの紅葉がきれいで。篠崎さんにも見せたかったなぁ」
意外なことに、美咲は塚元くんを見ても普通の旧友に遭ったような通り一遍の反応をしただけで、大袈裟に驚くこともなければ気味悪がることもなくて、見えていないという事もなかった。
「わぁ、塚元くんだ。久しぶりね」
「なんだ、来るのって美咲だったのか」
「なんだとはご挨拶ね! 何年振り?」
「確か同窓会以来だから……」
二人が普通の同級生のやり取りをし始めるのを聞きながら、キッチンのコンロでお湯を沸かす。ポットとカップを丁寧に温めて三人分のお茶をゆっくりと淹れた。茶葉はアッサムにした。ミルクを入れると美味しいから、プリンにも合うかも知れない。
温かい紅茶をお腹に入れると少しだけ気持ちが落ち着いて、やっと美咲の顔を真っ直ぐ見ることができた。相変わらず綺麗な美咲は、華奢な指先を葡萄色に塗っている。
「ふたりとも元気そうで安心した。ねぇ、今度みんなでお出かけしない?」
片方は生首なのに? そう言いたいのをグッとこらえて、発言する代わりにプリンを口に運ぶ。美咲は嬉しそうに目を細めていて、やたらと「お出かけ」の提案をしている。
「遊園地だと塚元くんは絶叫マシンに乗れないかぁ」
計り知れない友人だと思いながら、私はスプーンで掬ったプリンを塚元くんの口元へせっせと運ぶ。
プリンはキャラメルの味がして、紅茶と合わせても美味しいものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます