美咲の携えて来た紙袋の中身はガラス瓶に入ったプリンだった。小ぶりな瓶を三つ取り出しながら、週末に遠出してきたのだと語る。

「湖の周りの紅葉がきれいで。篠崎さんにも見せたかったなぁ」

 意外なことに、美咲は塚元くんを見ても普通の旧友に遭ったような通り一遍の反応をしただけで、大袈裟に驚くこともなければ気味悪がることもなくて、見えていないという事もなかった。

「わぁ、塚元くんだ。久しぶりね」

「なんだ、来るのって美咲だったのか」

「なんだとはご挨拶ね! 何年振り?」

「確か同窓会以来だから……」

 二人が普通の同級生のやり取りをし始めるのを聞きながら、キッチンのコンロでお湯を沸かす。ポットとカップを丁寧に温めて三人分のお茶をゆっくりと淹れた。茶葉はアッサムにした。ミルクを入れると美味しいから、プリンにも合うかも知れない。


 温かい紅茶をお腹に入れると少しだけ気持ちが落ち着いて、やっと美咲の顔を真っ直ぐ見ることができた。相変わらず綺麗な美咲は、華奢な指先を葡萄色に塗っている。

「ふたりとも元気そうで安心した。ねぇ、今度みんなでお出かけしない?」

 片方は生首なのに? そう言いたいのをグッとこらえて、発言する代わりにプリンを口に運ぶ。美咲は嬉しそうに目を細めていて、やたらと「お出かけ」の提案をしている。

「遊園地だと塚元くんは絶叫マシンに乗れないかぁ」

 計り知れない友人だと思いながら、私はスプーンで掬ったプリンを塚元くんの口元へせっせと運ぶ。

 プリンはキャラメルの味がして、紅茶と合わせても美味しいものだった。

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