坂道
住んでいるマンションはちょうど小高い丘のような地形にある。不動産屋さんのカウンターで物件情報を見たときに、マンションの名前に「ヒルズ」の文字が並んでいたのできっと坂の上にあるんだろうと思ったけれど、それは本当にその通りに、丘の上にある建物だった。
南向きのリビングダイニングは割と眺めが良くて、窓の外には色づきはじめた桜の葉の向こうに坂道が見える。ベランダに出るための掃き出し窓の前で、私たちは外を眺めていた。
最初こそ「誰かに見つかったらマズイだろ」と躊躇していた塚元くんも、坂道を登ってくる人は皆一様に足元を見ていることに気付いたのか、ぼんやりと日向ぼっこを楽しんでいる。
「そろそろかしら」
「なぁ、ほんとに誰が来るんだ?」
「塚元くんの知ってる人だよ」
生首にも日向ぼっこは必要だと思う。太陽の光を浴びるとセロトニンが分泌されるのだという。それは網膜から日光が入ることがきっかけになるそうで、塚元くんには眼球も脳もあるのだからきっと効果もあるはずなのだ。
「セロトニンにはストレス緩和効果があるんだって」
「セロ……何だって?」
塚元くんが私を見上げる。私は視線を感じたまま、マンションへと続く坂道を眺め続ける。
カツン、と小さな音を耳が拾う。カツン、カツン、カツン。ヒールのある靴で誰かが坂道を登って来る。白いふわふわしたニット、ふんわりしたフレアスカートは秋の色。見覚えのあるブランド品のバッグと、反対側の手には小さな紙袋を持っている。
「美咲」
「……え?」
呟きに反応した塚元くんの顔を見られたのは、玄関のチャイムが鳴ってからだった。
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