鶺鴒(セキレイ)
キセキレイを見たことがある。山の中だった。
大学時代に友達からバードウォッチングのサークル活動に誘われて、特に興味もなかったけれど、何者かになりたい気持ちがあるだけで、何となく参加を決めた会だった。
参加している人達は大体がバードウォッチングに慣れていて、小高い丘のような山の雑木林の中を歩いて進む。所々で誰かが「囀りだ」と足を止め、他のみんなが鳴き声から何の種類の鳥かを推測しながら、双眼鏡で鳥の居場所を探す。運良く姿を捉えると、三脚を立てて望遠鏡を固定して、みんなで代わる代わる覗き込んだ。何十倍にもなった景色の中に、黄色いお腹をした小柄な鳥が一生懸命に鳴く姿が見えた。
チチチチチ、ピイピイピイ、チチチチ。
「……かわいい」
私が溢した感想は至って普通のものだったけれど、初心者の素朴な感想として受け入れられる。私はその日、都市にもハクセキレイという種類の鳥が住むことを覚えた。
チチチ、チチ、チチチチ。
窓の外から鳥の鳴き声が聞こえて、なんとなく耳を澄ませていた私は鳥の名前を口にする。
「ハクセキレイだ」
クッションの上で塚元くんが不思議そうな顔をした。
「篠崎って、野鳥とか詳しいんだっけ?」
ふふ、と息だけで笑ってから短く答える。
「ナイショ」
ちょっと拗ねる塚元くんは、割とそこそこ、可愛かったりするのだ。
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