眠り
いつもは秒で眠りに落ちる私にも、なかなか眠りが訪れない晩がある。心配事がある時、逆に楽しみすぎる時、それから、深酒をし過ぎて睡眠の途中で目が覚めてしまった時。
今夜は職場の飲み会に呼ばれてしまい、あまり気乗りしないその場に出席せざるを得ず、愛想笑いを浮かべてやり過ごしているうちに、ついつい飲み過ぎてしまったようだった。その場で出る話題と言えば、愚痴にゴシップ、根拠もわからないような噂話。楽しくないお酒ほど悲しいものはない。
「眠れないのか?」
観念してベッドから這い出てキッチンに水を飲みに行くと、ダイニングテーブルの上の塚元くんが話しかけてきた。
「起こしちゃった?」
「いんや、起きてた」
そうなのか。あまり活動もできない生首だから、体力の消費がないのかも知れない。そうなると睡眠もぐっすりという訳にもいかない……のかな。正直よくわからない。
以前に、室内で飼われている犬で雨の日にお散歩が出来ないときは、嗅覚を利用したオヤツの場所あてゲームなんかをするとそれなりに好奇心や探求心が満たされる、と推奨しているのを読んだことがある。
私は塚元くんをじっと見た。
「な、なんだよ」
現状、塚元くんは自分で動こうとしない。これは動けないのか、それとも動かないだけなのか。仮に、私が仕事に行っている間に、例えば部屋の中に猫とか、もしくは蚊なんかが侵入してきた場合、塚元くんは逃げたり避けたりできるのだろうか。
「……何でもないよ」
膨らみ始めた妄想に蓋をするように言って、もう一度ベッドに潜り込む。
「おやすみ」
塚元くんの声が追いかけてきたけれど、返事をする間もなく、私の意識は眠りの中へ溶けてしまった。
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