旅行に行きたい、と考えてしまったのは、昨日の温室が尾を引いているからかも知れない。熱帯の奇妙な形の植物たちは、それなりに異国情緒に溢れていた。

「もし旅行に行くとしたらさぁ」

「旅行?」

「そう。塚元くん、トランクに入るのかなぁ」

「トランク……なんか、バラバラ殺人みたいじゃねぇ?」

「あら、ほんとだ」

「あらじゃねぇよ」

 塚元くんは冗談じゃねぇ、とか、洒落になんねぇ、とか、ひとりでブツクサと文句を漏らしている。怒ったのかも知れない。

 現実的に考えて、まず海外旅行は無理だ。X線検査を無事に乗り越えられる気がしない。

 となると国内か。やっぱり通気性の問題もあるし、ピクニックバッグかな。

「なぁ、」

 声がかかって意識がそちらに戻る。塚元くんはいつになく真剣な表情をしていた。私は、なぁにと何気なさを装いながら返事をする。

「捕まるような真似、しないでくれよ……困るんだ、お前がいてくれないと」

 それから、塚元くんは目を閉じて黙り込んでしまった。私は言われた言葉の意味を考えながら、窓の外をぼうっと眺めていた。

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