温室
温かいを通り越して暑いくらいだった。湿度が、高い。
それにしても湿潤な気候を好む植物というのは奇妙な形をしているものが多いように思う。見上げれば、大きな櫂の形をした葉らしきものが、扇のように並んで広がっている。その向こうはガラス張りの天井で、見上げているうちにポカリと口が開いた。
新宿御苑の大温室に来ている。十年ちょっと前に建て替え工事があったのは知っていたけれど、ここへ来るのは初めてだった。
塚元くんも連れて来れば良かったかな、と少し考えてみる。連れてくるなら籐のピクニックバッグが良いかも知れない。あれなら通気性もあるし、たまには外の空気も吸いたいかも知れない。でも、塚元くんはよく喋るから、外で喋られたら少し困る。
「温室暑ぃ」
「出ようぜ」
「腹へった。お茶しないか?」
次々とピクニックバッグからかかる声を想像して、ちょっと笑う。これはきっと、困るなぁ。
足元に細長い葉を放射状に伸ばした不思議な形の植物が生えている。半分隠れて説明書きのプレートが立っているので、しゃがみ込んで覗き込んでみれば「アナナス」と書いてあった。ははぁ、これは。要するにパイナップル。
写真の中のアナナスは、中心部からぐんと伸ばした茎の上に、パイナップル状の小さな実を唐突に実らせている。あれってちょっとだけ生首に似ている。そんなことを思いながら温室を後にした。アナナスの鉢植え、買って帰って塚元くんの横に並べたら怒るかしら。それとも、喜ぶかしら。
お団子屋さんの前を通る頃には、鉢植えのことはすっかりと忘れていた。
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