15.便利なアイテム
(かわいいなぁ。この頃からこんなに綺麗な顔してたんだなぁ……)
ずっと見ていても飽きない推しの顔。
天使のような寝顔とはまさにこのことで、絵画から抜け出した人物みたい……は、ちょっとだけ言い過ぎかな。
そこは私も推しだから過大評価してるってわけで。
そう見えちゃってます。
ゲーム本編の共通ストーリー内で見せていた青年期の落ち着いた態度からは全く想像できなかったけれど、少年時代のコルフェは意外といたずらっ子気質でもあった。
ただいま推しの新たな面に私も情報更新中。
魔法を得意気に使って見せたり、私に寝る前のキスをしてほしいとねだってみたり。
なかなか小生意気な性格で私に合わせようと背伸びもするし、堪えきれなくて素直に泣いちゃったりもする。
年相応にかわいいところもあるじゃないか。と、彼の横顔を眺めているとついつい表情がゆるんでしまう。
いかんいかん。せっかく名前と一緒に形成されたばかりの大事な顔なのに、ほころばせてばかりでいたらどろどろに溶けちゃいそうだ。
本当に溶けたらジャンルが変わってホラーゲームになっちゃうけれど。
とにかく新しい私の顔を大切にしなければ。と、自分の頬を叩いて気を持ち直す。
(とりあえず、私はやり遂げた。コルフェにふりかかる災いを回避してフラグは折ったんだ。一旦休んで、明日からのことを考えよう)
コルフェが穏やかな寝息をたて始めた頃、私もひとまずはお風呂から済ませようと廊下に出た。
そんなところで、タイミングよくすれ違ったのはミシュレットさん。
私は機嫌を良くしたまま彼女に会釈をする。
「ミシュレットさん。コルフェのこと、ありがとう」
「いいえいいえ、メイカさま。私は使用人としての仕事をしただけでございますよ。しかしながら、あの少年は一体……」
話してみるとミシュレットさんにも私のメイカという名前は定着していた。
まるで最初からずっとそう呼んでいたかのように彼女は自然体で、主人の私にお辞儀をしてから優しくほほえむ。
「ええと、あの子は……」
コルフェのことはどう説明しようか悩んだ。
正直に卑しい教会の神父から引き離し、保護するために連れてきたと言うべきか。
それとも、例の空想婚約者との子供だってことにして嘘を突き通してしまうべきか。
私がどちらで答えるべきか考えていると、「それと」と、付け加えて先に言葉を挟むミシュレットさん。
「状態異常が起きていらっしゃったようなので、彼には解除薬を使わせて頂きました」
「えっ。解除薬?」
そんな便利なアイテムがあったなんて、急に世界観がリアルからゲームになったな。
普段の生活では聞く機会がなさそうな単語に思わず聞き返してしまう私。
ミシュレットさんは困ったように「はい」とだけ返事をした。
どうやら媚薬によるコルフェの発情は私だけにはあきたらず、お風呂場に連れていってくれたミシュレットさんをも標的にして誘ったらしい。
すっかりあの子一人で欲望は全部洗い流してきたのかと思っていたが、部屋に戻るまでに発情が収まっていたのはミシュレットさんが使った解除薬のおかげだったみたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます