我の孤独と 第一部 第二章

 そうなる浮浪者の父親とこうまいなるのちの住職様とのかいこうによりもうまいなるおれは霊験あらたかなる『まんぷく』でせんめいたる霊肉をかんようされることになったがあけれども天衣無縫のおれときたらきんじやくやくたる幼少期からわかの暴れんぼうでしょうがなかったらしいのお。

まんぷく』でこうしのぐようになったおれはかくしやくとして成長していってけんじんなるひやくがいきゆうきようを享受したらしいがのおばんきんの言葉でいえば多動性しようがいとでもいうがあろっかのお『まんぷく』中の障子戸という障子戸を羅利粉灰に粉砕してのお神聖ぼうとくすべからざる狩野芳崖の掛軸とやらまでめつりにしてしまったらしいがあよ。

 のちの住職様はの住職様にきつきゆうじよとして陳謝したらしいけれどもの住職様は「どうせ国宝級の掛軸が『まんぷく』にあるはずもねえ。全知文殊さつ様が我我ににせものと勘附かせてくれたがあろお」というように豪放らいらくとして容赦してくれたらしいのお。

 の住職様は旧弊を墨守するかただったらしいがのお『まんぷく』ではこうまいなるのちの住職様のぼうへきすうたる長岡市内の『無縁』のきがらなかんずくぎよう混濁の路傍にてへいした浮浪者のきがらを役所様かからか譲渡されてめいちようたるそうれんけみしてかくりようたる墓地の『無縁』墓石に埋葬しておったがあよ。

まんぷく』は浄土真宗の古刹だったがあけれどもしやはんそうれんにはのおはんぶんじよくれいの宗派に関係ないようにはんにやしんぎようどくしようしてからに附していたがあな。

 二歳くらいだったおれはのおしつかい意味のわからぬはんにやしんぎようを全文記憶してのちの住職様と一緒にどくしようしてたがあよ。

 きつきようしたのちの住職様は「あなたは天才かもしれない」といったようでおれに般若経の写経をやらせようとしたようらの。

 いんの『文字列』が強烈にのうに残存してのお『文字列』そのものがおれの原体験になっておれは『もののかたち』に興味がうつぼつとなったがあの。

 ように『天才』とさんぎようされながら『まんぷく』でえいきよけみして三年かのおおれもかいわいの幼稚小学に入学することになったがあけれどものお知性全般においてはてきとうらのになにゆえか『読み書きそろばん』の『そろばん』だけは滅法よわくてけつけつたる数字も勘定できねえことからしゆんぼうたるのちの住職様は『むしろこの子は知的しようがいかもしれない』とこうかくされてほうばいの心理学の専門家に相談したらしいがあよ。

 のちの住職様はらんばんじようの青春時代がくもんの道程をばくしんして東京ていこくだいがくを卒業しておったがあけれどもくだんのほうばいというひとは東京ていこくだいがくかいこうした女性でのおは東京ていこくだいがく心理学部の教授をされておったそうらの。

 じゆんこうかいの日本の精神医学は発展途上で癲狂院や脳病院といった施設の管理はさんだったからのおしゆんがいたるのちの住職様はちよくせつ精神医学の専門家に相談したようらのお。

 きつきゆうじよたるのちの住職様のぼうりようしようした心理学の専門家たる女性いわく「こちらこそ貴重な資料がえられましたのでありがとうございました。ひととおりビネー式の知能テストやロールシャッハ式などの心理検査を遂行致しましたところめいちようたる精神疾患はみられませんが言語知能指数にばらつきがあることや心理検査の多動性などからおくそくしてばんきん当学会で研究のすすんでいる『ディスカリキュリア』というしようがいに分類されるのではないかと存じ上げます」ということだったらしいのお。

 ディスカリキュリアというのは最近の言葉では『高機能広汎性発達しようがい』の一分類らしいがあけれどもように診断されたおれはのちの住職様のていあんで精神身体知的しようがいを教育してくれるなことに『校舎』のない『よいこのいえ』という幼児小学に入学させてくれたがあよ。

 相変わらず多動性で暴れんぼうだったおれは入学早早『よいこのいえ』で威張りちらしていた車椅子の男児をげんこつちようちやくしてしまったがあて。

『よいこのいえ』の園長先生は「ほんとうの悪人なんてこの世界にはいないんですよ」といっておれを容赦してくれたがあけれどもきようこうおれと車椅子の男児はけん斗りするようになったがあな。

 某日みんなで『おえかき』をすることになってのおみんなが『おはな』や『だんごむし』の『え』をかいているところ『そげなの『え』じゃねえ』とおもったおれは画用紙を切裂いて『これが『え』らのお』と自画自讃していたがあけれどもおれの『え』をみた車椅子の男児がもどおり『だ。だ』とおれをざんぼうしたがあよ。

 もは無関心なひとりの男児が車椅子の男児にげつこうして鉄拳を掲揚し車椅子の男児のじゆうたちとにらみあいのたいをしておれを擁護してくれたがあの。

 おれは男児の背後でびくびくしてめいもくしたもんらのお。

 結句男児が勝手ままなる自分をぼうぎよしてくれたことに感激したおれは勇猛果敢なる男児に「おめさんと結婚するけんね」と約束したがあよ。


 おれは『愛』をったようらの。

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