生と死と 第一部 第四章

 おれさまは不良になっちまった。

 せんめいたるはん少年ってやつさ。

 一二三四五六七はじしらずのおれさまはくだんの少年とけんしちまったことからぎよくせきこんこうの北中学校内でもモノホンのワルみてえにみられるようになっちまった。

 おれさまの『能力』によっておれさまはけんの達人みてえにさんぎようされてかんけつの不良たちからほうばいになんねえかなんてきようわくされちまったが元来不良になるつもりもなかったおれさまは平平凡凡たる生徒たちからもぼうひようの不良たちからもひんせきされてかんどくとなっちまう。

 結句陰陰滅滅たる感慨になっちまったおれさまはきゆうていたいりよの勉学にもしんしようたんできずげた推薦入学で三流の中越高校に進学するっちゅうことになったのさ。

 ぎようこうにも最愛の理解者であるばあちゃんがひやつりようらんの絵画を売買したことでとうしゆとんとみを獲得していたから学費の高い私立に入学できたんだがきようこうとうくつのばあちゃんにも迷惑はかけらんねえっつうこって一念発起したおれさまは高卒で就職せんとけつしたってわけさ。

 高卒のはん少年がまともに就職できるはずもなかったんだがおれさまは『未来がみえる能力』で認識していた。

 母校北中学校かいわいにはしよくそうぜんたる工場ちゆうみつ地帯がじようしていての零細企業の社長さんが『面接にきたやつは片っ端から合格にする。早いもの勝ちだ』っていうこうで有名ななる経営者で新卒就職時宜が到来するとおれさまは疾風迅雷でくだんの零細企業の面接にばくしんした。

 ぎりぎり最後のひとりの就職枠を獲得して立派な社会人になったおれさまは最愛のばあちゃんをえんさせないようにろうこんぱいしながらもびんべんしていったのさ。

 工場内のうわさによるとくだんの社長さんは旧新潟鉄工所で旋盤工をないにしていたらしいがとくあいをそそいだ令嬢さんがはんぶんじよくれいの就職活動に失敗して自殺未遂しらい元来精神科専門だった西病院に通院しながらしゆんぷうたいとうと療養生活してるっちゅうこって『まなむすめのような子供をこれじようつくりたくない』っちゅうぼうから『早いもの勝ち』という経営理念にほうちやくしたっつうことだった。

 おれさまは感動したような感動しないような感慨で結句ばあちゃんにも社長さんにも恩義があるんだからという気持ちで秋霜烈日のにくたい労働にしんしようたんしていったのさ。

 ぎようこうだったのは零細企業ながら工場の設備はほうじようで熟練工が旋盤やプレス加工をするほかはNC機械で作業をしていたから精緻なる計算や機械技術がなくてもこうをしのげたってことだ。

 五人程度の従業員も工業高校卒なんてやつもいなくておれさまとおなじ元はん少年っちゅうのがほとんどだった。

 零細企業っつっても従業員同士のはんなんてものは存在しなくてみんながみんな毎日の作業を遂行してへとへとになって帰宅するだけだったんだ。

 ようにして豪邸たる文化住宅に帰宅した某日おれさまは『能力』でさとっていた。

 憂鬱色の黄たそがれが到来しかんせん達者とはいえないばあちゃんの特別あつらえのゆうを満喫したおれさまは一応「ばあちゃん。これから用事があるけれどばあちゃんはでてこないでくれ」といってしようしやなる玄関へとしようようかつした。

 同時に何者かがごうぜんとしてけんじんなる玄関扉をちようちやくしはじめたのでおれさまは「ひさしぶりだな」といって玄関をあけてやったのさ。

 玄関前にてきちよくしていたのは最愛の父親をおれさまのげんどおりに喪失したくだんの不良少年だった。

 うつぼつたるしん炎に顔面を紅潮させている少年はしやだつなるサラリーマン風のふうぼうてんぜんとしてべつけんしたおれさまをいまにもころそうかという勢力だった。


 実際にかれはおれさまをころしにきたんだ。

 不良少年の手元には『ドス』がきらめいていた。

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