光と蔭と 第一部 第一章

 光と蔭と


 わたくしには『ひも』にみえます。

 世界の万物が『ひも』にみえます。


 ぼうばくたる異国を遍歴してきた医師として二十九歳になったわたくしはかんじああんたんたる医療施設にていつほうはいと爆発するかわからない『クラスター爆弾』をていせいして疾駆しながら『ひも』とともにあった人生をほうふつせんとしていました。

 わたくしの人生は最終的にほうたいたる『ひも』のかげでの喜劇がありほうたいたる『ひも』がえんげんである悲劇があって快刀乱麻のようにめいちようたる意味があったのか不条理なる無意味なものであったのか断言することはできません。

 そうです。

 わたくしには生来『世界がひもでみえる』という複雑怪奇なる能力がそなわっていました。

 現在玩具じみた『クラスター爆弾』をていせいして疾走しているわたくしにはこのあんたんたる医療施設ぜんたいも瑠璃色に明滅する『ひも』のかたまりとしてしかみえません。

 またわたくしには『ひもにふれると量子エンタングルメントで接続されたほかのひもから情報を獲得する』という能力もそなわっておりました。

 ひつきよう『一本のひもにふれると連鎖的に世界のすべての有様が一刹那にして理解される』のでございます。

 まんいちの場合には両腕で『クラスター爆弾』を抱擁して自爆せんとけつしていたわたくしはへんぽんとしていちぼうとうして『だれも犠牲にならない未来』を追窮いたしました。

 つまり造次てんぱいながら自由にした左手で医療施設の壁面をあいし『クラスター爆弾』を処理できる場所を『検索』したのです。

 てきちよくする臨時医療施をじようするしゆうふうさくばくたる地雷原ではいまだにくりの地雷撤去作業に奮励努力している作業員たちがいらっしゃいますし円環状の地雷原のかいわいで爆発させればせきする臨時医療施設に甚大なる被害がでないともかぎりません。

 結句わたくしはきゆうていたいりよの生命たちのゆうとなっている医療施設の臨時駐車場にて『クラスター爆弾』を爆発させれば被害は最小限ですむとこうかくいたしました。

 わたくしは全身全霊でひやくがいきゆうきようを緊張させ一所懸命に医療施設の出口へと疾駆してゆきます。

 おうじやくなるシート状のとびらをさつそうとひらいてこうの中枢にでると右側後方がくだんの臨時駐車場となっておりました。

 じんこうのテント型ながら外壁はしようしやに塗装された臨時医療施設を右側へとかいいたします。

 右手に『クラスター爆弾』を掌握したわたくしは『やった。まにあった。大丈夫だ。問題はかならず解決される』と刹那にせきりよううつぼつたる無人の駐車場へと『クラスター爆弾』をほうてきせんといたしました。

 わたくしは勘附きました。

 先程まで無人であった臨時駐車場に医療施設関係者の襤ぼろぼろしやりようがとめられておりこぢんまりしたしやりようから医療関係者が降車してきたのでございます。

 わたくしはないりゆうちようならざる日本語なまりの英語で「キケンデス。ニゲテクダサイ」と絶叫いたしました。

 しゆ混乱し意識がこんだくしたらしい関係者はわたくしのていせいした『クラスター爆弾』に気附いたらしくしゆもなく医療施設のうしろがわへとくりげてゆきました。

 わたくしは『よかった。もう問題はない』とこうかくし右手をおおきくふりかぶり玩具型の『クラスター爆弾』をとうてきせんとしました。

 です。

 運命の女神がほほんだかとおもったらかのじよはたんなる死神だったのです。

 わたくしが意気揚揚とかかげた『クラスター爆弾』の起爆回路がついに復活したためかわたくしのとうの上方でしゆつこつとして爆発したのでした。

 ごうぜんたる爆音とともにえんいつたるえんが四方八方へとばくしんしてゆきわたくしの脳天からほうはつが蒸発しとうの皮膚という皮膚がしようされ頭蓋骨が羅利粉灰にされて脳髄が露呈し脊椎をへきとうとし神経系統がこうらんされしやくねつの烈風が咽頭から肺臓へとれこみ刹那に呼吸がようそく阻止されるいじやくなる右腕はせつだんされ胸郭部の筋肉はしようされわたくしの上半身はかみくず同然にふきとばされました。

 ように脳髄から心臓までのぞうろつが破壊されてゆくさまをタキサイキア現象によりかんじよとして体験していたわたくしはけつけつたる細胞レベルでになってゆく意識によりあいまいとしておもいました。


『おれの人生ってなんだったんだろう』と――。

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