天と地と 第一部 第六章

 愚生は背後でひやくがいきゆうきようをふるへさせてゐる少女に「大丈夫らよ」としようじゆする。

 きようりようなるおともだちのひとりが両手を鉄拳にして愚生の脳天を交交に殴打してくる。

 ろうれつなるおともだちのひとりが両足でたたをふむかたちで愚生の右足を幾度もじゆうりんしてくる。

 多数のおともだちが愚生の四肢のを掌握して上下左右にぶんなげてゆく。

 年齢に不相応なくらゐに巨大なるにくたいのおともだちが現前するとしやはんの仲間たちが四散してくだんのちひさなる巨人が右腕をかいてんさせて愚生の顔面に正義の一撃をくらはせてきた。

 ないめいもくした愚生のまぶたの『ひも』がかくやくと明滅し愚生の意識がこんだくする。

 愚生はそうそうろうろうとあとじさりして日輪の光輝で視界が完璧なる純白となつてふんばりきれずに背後にてんした。

 不運なることにぎようせんとした愚生はうつそうたる大樹の根元に鎮座したかいなる石塊に後頭部をうちつけて脳髄がけいれんするぶんがした。

 後頭部からようようようようたる鮮血がながれる感覚がして鬱勃たるおう感にひようされる。

 もうろうとした意識のなかで車椅子の男児による「バルチック艦隊をたおせ」といふ嘲笑のこゑがめいたぶんがした。

 愚生は意識がそくめつされんとしてゐた。

『おれはもう死ぬがあか』とおもふと造次てんぱいもなくけつけつたる視界の『ひも』たちがじんかいめつしてゆき愚生の意識はけんじんなる百骸九竅からかいし天壌無窮の大宇宙にほうてきされたやうになり同時にほうはくたる宇宙ぜんたいせんをゑがいてかくはんされるのを体験した。


 渦巻く宇宙の最涯てからこゑがきこえた。

なんじは――――』といふこゑもやがて途切れてしまつた。


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