天と地と 第一部 第四章

 たいたる愚生が誕生したのが西暦一九二四年でありしゆんたる父親がへいしたのが西暦一九二五年である。

 前述のやうにたんげいすべからざる父親とけつべつした愚生であつたがぎようこうにもぼうひようの愚生の父親を英雄視した花火職人の統領が「おめさんたちに借りをかへさなきやならん」といつてかんどくの愚生と母親のこうしのがせてくれることとなつた。

 愚生が萬二歳程度のことであつたらう。

 なる母親がいんもうの毛糸で編物をしてゐるひも』といふ概念を認識した愚生が「みんな『ひも』で出来てゐるがあよ。すごいむかしすべてはひとつの『ひも』でね。から沢山の『ひも』が出来たがあよ」とひようぼうし頭脳めいせきなる母親も愚生が神聖ぼうとくすべからざる先祖たち同様『世界がひもでみえてゐる』ことを認識したらしく「おまへの爺さんやとうさんも『世界がひもでみえた』があよ」と伝播してくれた。

 愚生が造次てんぱいもなくしゆんぷうたいとうたる幼稚小学に入学するであつたがしやはんの能力を認識した母親は特殊なる存在である愚生を一般的なる幼稚小学に入学させることをちゆうしたやうだ。

 とうくつの母親が穿せんさくしたところきようあいなる長岡市内のへきすうに『よいこのいえ』といふなる幼稚小学校を発見しに愚生を入学させることと相成つた。

『よいこのいえ』はせんめいたる幼稚小学なのであるがめいちようたる『校舎』がなくいんうんたる真夏日にはおそとでゆうをしあいたいたる曇天となれば遊技場を教室としてべんきようをしめいもうたる豪雨となればあまがつてんじようさせて御散歩にゆくといふ『野性的』なる教育を実現してゐる小学であつて同時に秋霜烈日のしようがいしや差別の雰囲気がうんじようされてゐた時代にあつてるいじやくなる精神身体知的しようがいかんとして入学させてゐたことからしゆんぼうたる母親は愚生を『よいこのいえ』に進学させたらしい。

 ようなる環境が愚生の精神をせいかくかんようしてくれたとおもふ。

『世界がひもでみえる』愚生にとつて片脚のないものも盲ろうのものも知的しようがいも精神しようがいも結句『ひも』の団塊にすぎないひつきよう『人間などみなおなじらねつか』といふ認識がほうしたのである。

 萬三歳で入学した愚生は『よいこのいえ』でふたりの重要人物とかいこうした。


 車椅子の男児と運命の女児である。

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