天と地と 第一部 第二章

 ぶつたいにふれることで『森羅万象をなすひもの記憶』をたどれるといふ愚生の能力でおなじく『世界がひもでみえる』能力の歴史をほうふつすると時代は幕末にまで遡及できる。

 そもそもだが愚生みずからの『ひも』の記憶によるとなる愚生の血脈は元来から文字さんだんのために武蔵国へとばつしようしたものの雌伏にて雄飛ならずへきすうたる越後へとりよしたのち百姓としてこうしのぐやうになつた一庶民から継承されたものであつた。

 へんぽんとして百戦錬磨の戦国大名がりゆうじようはくしたこくしゆうしゆうたる戦国時代に平平凡凡たる名田地主であつた祖先が英雄上杉謙信のようひんしつされたことによつて一豪農となりぼうしつされるべきみよう帯刀まで容赦されたことになる。

 しやはんの系譜からけんらんごうなる徳川時代末期にしゆつこつとして『浮世がひもでみえる』といふ能力をもつて誕生した愚生の祖父はいんの能力を縦横に発揮して百戦錬磨の武士となり長岡藩士として任免ちゆつちよくされた。

しやひもでみえる』といふ能力を濫用して奇奇怪怪なる剣術を獲得した祖父はいんの特殊能力によつての剣豪としてさんぎようされたのだ。

 ろうぜきの明治維新前後ほうはいたるしん戦争にてふんじんの長岡藩士として百戦錬磨の新政府軍と衝突したどうもうなる新政府軍の新兵器――アームストロング砲やガトリング砲であらう――の猛襲をも回避してばくだいなる武勲を享受した。

 めんとなつた長岡藩士たちははいじくしたがなる特殊能力をもつた祖父は百花繚乱の長岡藩士の同胞を犠牲にしながらもいんの能力によつて乱世を生存することとなつた。

 きようらんとうの明治維新らいこうまいなる武士の階級をさんだつされた祖父はじゆんこうかいの日本列島のへきすうの古刹『まんぷく』のひとりむすめとえんおうちぎりをかはし『まんぷく』の後継者となるはずであつたがるいじやくなる子息すなはち愚生の父親が誕生したのちり明治政府に人生をじゆうりんされたことで現代でいふ大鬱病にかんし一所懸命にぼつこんりんたる『遺書』をごうしたうへで愛妻に譲渡し自決した。


 遺書には『一切皆紐 此不可解』とだけ揮毫されてゐた。

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