第17話 ご婚約

 人数でごり押しして野営は出来なくもないが、問題は費用対効果なのだそうだ。

 守護将閣下と継嗣殿が相談して、より安全な三月に決定した。決定してしまった。

 吾抜きだと、みんなで湖畔のキャンプをするだけになるんですが。

 今回は後十日間、朝一で行って夕食前に帰る。


 銀よりは上の魔物素材もかなり見付かったので、三年生全員がそれぞれの属性の気身物を手に入れた。

 個別にお礼を申し上げたいと言われたけど、代表の孫の人だけにしてもらった。


 帰る前に魔窟の最奥を覗いたら、銀塊が復活していたので穴を開けて掘ってもらって、お土産にする。

 家族に銀塊を配って、ご正室と父上の手金庫を交換する。

 小屋敷に帰って、八人にお土産を配り、その夜祥泉と佳楊にむさぼられた。冷めたわけじゃなく、出発前は分を弁えただけだった。

こんなこともあろうかと用意しておいた、金の精力の腕輪を装備する必要があった。 


 翌日持ち帰り物の確定に近衛軍に出仕すると、真北の銀塊が復活していたので、茨回廊を見て欲しいと頼まれる。

 軍に利益のある仕事なので、吾の家人全員を連れて行って貰えるか聞くと、快諾された。

 道が整備されて、途中まで兵員輸送車で行けるようになってるそうだ。五日後に出発予定。

 漸く養成所に行ったら、級友達は明日から魔窟の入り口で野営しながら戦闘訓練だった。

 増援部隊が行き来したせいで、途中の道も安全になった。

 吾は茨回廊に行くので一緒に行けない。

 全然同世代の子供と交流出来ていない。何のために入学したんだか。


 茨回廊までの間どうしようかと思ったら、教師陣から三年生を護衛に付けるので下町の道具屋巡りをしてはどうかと提案される。

 銀の小物でも本物が安ければ有り難いそうだ。薬筒も買った方がいいので承知した。


 スクールバス的な兵員輸送車で出発。店前に横付けされても慌てることなく対応する店主。

 倉庫まで行かなくても、こちらが欲しい物は出してきた。

 金銀とも持ち帰り物の良品は全部買い取る。余っても一、二年生に配ればいい。

 手をつけてしまった手金庫があったので買い取った。うっかり交換しそうになった。


 儲かったので小物は護衛料として配布した。すごく喜ばれる。孫の人以外にも将官の血縁もいるはずなんだが。

 装備に頼ると強くなれないと言われて、買ってもらえないらしい。自分で稼いだ金で買うのは実力の内。誰かに貰うのも運で、それも実力の内。親の脛かじっちゃ駄目。

 倉庫ごと暴いている訳じゃないのでそんなに時間はかからず、午前中に四軒回って下町の大食堂でわいわいお昼を食べて、二軒残業して帰って来た。

 薬筒は三級が一つしかなかった。


 時々やって欲しいと頼まれる。手金庫があったら吾が特に欲しいもの以外は無料配布。なければ金物は原価で軍が買い取り。銀物は無料配布に決まった。

 将来の人脈造りだと思えば安い物だ。

 翌日は西の下町に行った。昼餉は西門が出してくれる。ついでに閣下と手金庫を交換した。

 良い女の店にも行った。随分艶が良くなっていた。


「調達師様、弄っちまった手金庫、買ってもらえますか」


 遺産買い取りで泣き付かれたそうだ。本物だったので買い取り。

 手をつけた手金庫の道具屋の買取値は五金。他に儲けになる買い取れるものがなければ買わないので、損はしないらしい。


 やはり五軒回って遣り切った感じになって小屋敷に戻ったら、兄上から連絡があった。

 茨回廊行きの吾の護衛に、兄上と愉快な仲間達が正式決定されたと。

 近衛軍調達師長の護衛に何時までも父上の家人が付くのはおかしい、というのは表向き、このままだと西門に吾が取り込まれる恐れがある。


「明日朝餉の後、出仕としてそちらに向かうが、西からの迎えは昼過ぎか」

「はい、その予定です」

「なれば昼餉を六人分用意してくれ。それと、こちらも丁度六人なので家人を向こうでの添い寝役にしてやるが」


 近衛衛士と養成所も出ていない家人見習いとでは、兄上の側はしてやる方になる。


「それは有り難いのですが、兄上と他の方で揉めそうに思えます」

「自分が一番で選べばよかろう。自分以外が良いと言う事ではなければ」

「それは有り得ません」


 六人に聞いても、近衛衛士なら誰でも有り難いと答えた。まあ、これがこの世界の常識。

 翌朝朝餉の食休みの後に調達師長警護隊がやって来た。衛士の通常の出仕時間だ。

 兄上は一格上がって中隊長になっていた。大尉じゃなく上尉。

 それぞれ相手を選んでもらったのだけど、この屋敷には客間が三つしかない。二人一組で使っている家人部屋は五つあるのだが。

 兄上以外は家人部屋で良いと言って、相方の子の部屋に入って行く。

 近衛兵でも兵隊なんてそんなもの。

 今日は他にする事がない。昼餉を食べたら、身支度を整えて、西門からの迎えを待った。


 迎えの車が来て、夕餉にはまだ早い時刻に西門に到着した。

 広い客間に通されて、夕餉までゆっくりしていてくれと言われた。

  何かありましたらお申し付け下さいと言って控えている三人の内、二人は上女中なんだが、一人すけすけの部屋着を着た、吾と同じくらいの年頃の、武人にしては小さい女の子がいる。

 常識的に考えれば守護将閣下の姪だろうね。気分的にゆっくり出来ない。


 可愛いんだよね。好感度を上げる装備を付けてるんじゃなかと思って見ちゃったくらいに。

 すけすけの部屋着は元々こんなお見合い用で、底上げアイテムを装備していないのを見せるためだった。

 助けが来られない危険な場所に、一緒に行ってくれる戦闘力のある相方は必要になる。

 見た目が好みなだけでなく能力も申し分ないはず。でも、差し出された餌に反射で食い付くのは良くない。

 

 気まずい時間が過ぎて、偉い人が集まった小規模の宴会風夕餉になったが、やはり女の子はいる。姪なら身分的にはここにいても良いのだが、紹介しないのはしてはいけないから。

 十二歳未満の女が十二歳以上の男の精気を受けると、授かりの術技がバグるらしい。出す側と吸収する側の違いか、男は問題ない。

 夜伽が出来ない子供を紹介は出来ないのだが、こちらから聞かれたら答えるのはあり。


「そちら様は、先日お話を頂いた姪御様でしょうか」

「いかにも、本職が継嗣に決まった後に生まれた妹の子でな、瑳弥さやと申す。来年、下士官養成所に入れる予定だ。良しなに頼む」

「こちらこそ、よろしくお願いします。瑳弥殿、改めまして名乗らせて頂きます。紫檀藍玉です」

「お名乗り、一命を持ってお受け致します。生まれは五月三十二日で御座います。どうか、お越し下さい」

「はい、どうぞ、宜しく」


 これ以上の事はない。十二歳になるまでは近付けない。

 傍にいるとお互いに我慢できなくなる可能性が高い。

 花魁の初回みたいな感じで瑳弥殿は下ろうとする。


「しばし、お待ち下さい。差し上げたい物が御座います」


 こうなるかもしれないと用意しておいた銀装備を載せたお盆を出す。無属性の理力の腕輪と二の腕輪、針金型と板型二つずつ。

 無属性の理力物を十二歳になる時に装備していると、良い術技が授かり、霊力量も底上げされると言われている。

 我が家の家宝の二の腕輪の完全版だ。

 誰がどうやって検証したのかは不明だが、この組み合わせが最強らしい。八つ揃いと呼ばれている。

 自分の属性の物では駄目なのだが、どうして駄目だか判ったのかも謎。


「無属性の理力の八つ揃いです」


 その場にいた兄上以外の者が目を見張って、閣下が膝を叩いた。

 兄上は姉上用に、足りない分を父上に差し上げたのを知っている。


「これはかたじけない! 瑳弥、頂け!」

「はい!」


 お互いに近づけないので、女中がお盆を取りに来て瑳弥殿に渡す。

 全て装備し終えた瑳弥殿が泣き伏す。


「お気遣い、真に有り難く……」


 言葉を返そうとしたら、手で閣下に止められる。


「瑳弥、名残惜しかろうが、今は去れ」


 瑳弥殿はこちらを見ないように去って行った。

 こちらはずっと見ていた。閣下に見張られていなければ抱きついてしまうところだった。


「五月三十二日まで、堪えてくれ。それにしても、あるものだな。我が家にも腕輪四本しかない」

「理力物は欲しければ頂ける条件で、銀製品は大量に確定致しましたので。まだずっと続けますので、二の腕輪四本揃いましたら、お届けいたします」

「重ね重ね忝い」


 すでにもう一組持ってるけど、簡単に集められると思われると、そこら中からくれって言われるから。

 吾のチート能力でも三組集めるのは簡単ではなかった。

 下位互換の首飾りと指輪二つの「三つ揃い」を、父上の親戚や上位の家人に何セットか上げているが、それですら六位以下だと持っていない。

 吾が生まれた時には四位だったが、父上の家は代々五位で、その家宝が二の腕輪二つだった。


 十二歳プラスマイナス一歳の斥候型武人として、瑳弥殿はベストチョイスだった。

 あとは将官の子では十四歳、十三歳、九歳が一人ずつ。孫は十歳が二人いるそうだ。

 孫はもっといそうに思ったが、将官の血筋では斥候型が少ない。

 


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