第15話 魔窟探検
入り口付近には感じる物は無く、本格的な探査は明日になった。
霊気の濃さの関係か奥ほど鋼銀が出易いので、最奥にある少し広いところまで行って、探しながら戻る事になっている。
このダンジョンは多少の上り下りはあるが、全体には平坦で、降れば奥に着き登れば出口に着くものではない。
期待感に満ちた朝が来て、朝餉の食休みもそこそこに、先行隊が魔獣を蹴散らし、吾の巡航速度に合わせて最奥を目指す。
途中にいた魔獣は、交通事故だと思って諦めてもらう。
横幅十椀ほどの太い道でしかない最奥の入り口で探索すると、真ん中辺りまでに三つ反応がある。
一椀くらい掘ってもらうと、銀塊より一回り小さい所謂銀色の塊が出た。
手渡されて収納すると、鋼銀の塊だった。
「鋼銀の塊に間違いありません」
「うおおおお!」
更に二つ掘り出して、真ん中まで行って探索すると、出口付近にも二つある。
広くなっている所は何箇所かあるが、今日は来た道を戻って普通の広さの道にもあるか検証しようとしたのだけど、他にも何か無いのか、真ん中に立って洞窟全体を探索したら、驚愕の事実が発覚した。
「天井にあります」
二発飛突を当てたら、ぼとっと落ちて来た。
「埋まってる物が雨も降らない場所で、地面から外に出るのはおかしい。だとすれば、後は壁?」
壁は一椀掘ると出てきた。天井のは重さでじわじわ降りてくるのか。
結局この広場だけで十七見付かった。
帰りは地面で三、壁から五、天井から七だった。素数か。
奥からほぼ半分のところからしか出なかった。
魔窟全体となるとどれだけ掛かるか判らないので、広場を全部探索して帰る。
十日掛かって、四百七十八個の鋼銀が見付かった。
戦略物資なので全量買取で、今回はお土産はない。
来月は一月でリポップするかどうかの検証をする。
帰宅前日に大宴会が開かれた。
「十一歳の武人としては小柄な姪がおるのだがな。どのような女人が好みか、伺ってもよかろうか」
酒の席の戯言的に、守護将閣下にさらっと話をされる。どこ行ってもそんな話が出るね。
帰ったら二格特進で六位の上になった。次に何かしたら五位だからな! みたいな。
制度上はあるのだけど、五位の下、調達師頭になった者はいないそうだ。
姉上にお土産はありませんと言ったら、自分だけ強くなってずるいぞ! と意味不明の切れ方をされた。
野生の幼女にペシペシポカポカされる。怒りが収まらない。
怒れる幼女も可愛いので、みんな微笑ましく見ていて誰も止めてくれない。
本当に強くなったので痛くはないが、少し痒くなってきたので、鋼銀一個分の金貨を上げると叩くのを止めた。
母さまが拳を握って見せ、一斉にポカポカされそうな雰囲気になったので、全員に配る。お土産大事。
溜まっている金装備の確定に出仕したら、軍司令閣下の執務室に呼ばれて、北門守護将閣下を紹介された。
軍司令閣下より少し細い感じで背は高い。軍指令閣下が豪傑だとすると、こちらは美丈夫。
パワーレベリング会場の真北にある、たいした事のない、名前もいい加減な感じの真北の魔窟の調査依頼だった。
銀塊の谷は年一回なので、茨回廊は再来月でいいんじゃないかと、偉い人の間で調整されたそうだ。
鉱物がそんなにリポップするものかと言われれば、そうかもしれない。
安全ならどこに行っても同じなので承知した。
北門守護将閣下が一つしか見付からなかったと手金庫を出されたので、交換した。最近見付からないようです。
祥泉と佳楊に連絡して、行く場所が変わったのを知らせた。やはり、どこでも着いて来てくれる。
北門軍から連絡があるまでやる事がなくなって、戦闘訓練をして過ごした。
中町は茉莉花と二人でなら歩けるようになった。装備のお陰だけど。
出仕した日は、午後から官吏養成所の女子寮に行って囲われ隊を誘って、金物屋銀物屋以外の店を覗いて彼女達のアクセ買いをする。
喫茶店に入ってお茶を飲んで、金貨を一枚ずつ渡して、寮まで送る。
祥泉が一番上の、ぎりぎり下位貴族のむすめばかりなのだが、僻みのイジメはないそうだ。
実質吾の家人扱いで、苛めたら国軍全体が敵に回ると思われている。
九月の半ばに北門から連絡があり、何か出ても十日の予定で切り上げる約束で出発する。
真北の魔窟は、森の中に出来た高さ五腕の段差に三椀の半円の穴が開いている、廃墟化したトンネルみたいなものだった。
入り口に広いエントランスホールがあり、幅三椀の道が三本奥に見えている。
ここは蟻の巣状で、道と繋がった広場で出来ていて、まず迷う事はないそうだ。
それでも、出たり入ったりして入り口の方向を覚える。
モンスターは大ネズミと小型狼、奥に大トカゲ。ネズミはイタチより弱い。
時間が中途半端なので、明日の朝早目に最奥まで行くことにした。
蟻の巣状なので最奥はかなり下にあるのだが、坂を下りて行くので割りと早く着いた。
モンスターは道にはいないで、広場で待ち構えているのだけど、しっかり討たずに適当に蹴散らして、最奥の広場も瞬殺だった。
しかし、道から置いてきぼりにして来たモンスターがなだれ込んでくる。
北門軍は鋼銀や魔物素材の武器を振り回し、野菜でも切るように殲滅してしまった。
「ここの魔物はたいして強くないとはいえ、数がいます。これ程容易に殲滅出来たのも、近衛軍調達師殿のお陰です」
探索隊長が、見たような赤黒い曲刀をかざして言う。
「お役にに立てて幸いです。更にお役に立てるとよいのですが」
大量に散らばった霊核の収納が済んでから、探索をすると、地面にいくつも反応がある。
「かなり数があります。まず、そこです」
掘ってもらうと白い塊が出て来た。
「銀塊です!」
銀か、と思ってしまったんだけど、北門軍はテンションがあがる。西の涸れ川で出るのより一回りでかい。
「ご指示をお願いします!」
「旗もってくればよかった、と思うほどあるんです。そうだ」
造ってもらった鋼銀の伸突剣を出して、埋まっている場所に穴を開けて行く。
広場を掘りながら戻って行く。途中でお昼になったが、他にする事もないので、引き続き穴開けの残業をしながら戻った。
夕餉には余裕のある時間に着いて、山分けを提案したけど、今回は吾が半分掘っているので、半分貰って残りを護衛の人達で分けた。
夕食後、明日誰が着いて行くかで揉めていたが、こちらはさっさと寝る。
探索隊長以外全とっかえの面子で二回目の探索が始まった。
広場の位置は全部分かっているので、昨日の一つ上から潰して行った。
夕食前に帰り着く。日本人としてはホワイトな職場。
明日には採掘人が来るので、銀がある一番浅い位置の広場を特定てほしいと言われた。
広場の入り口に穴を開け、棒を立てる。採掘人がどのくらいの速さで見付けるか判らないので、近間のもう一箇所にも立てて、昨日の続きを昼前までやった。
昼餉に戻ると、採掘人が四人到着したところだった。一緒に食べたが、昼休みももどかしそうだったので残業開始。
四人を広場の入り口に立たせて、感覚を見る。
「どうだ、ここに五十くらいあるのだけど」
「や、さっぱりっす」
「一個収納して、これを探す感じで歩き回ったらどうか」
「旦那がそうおっしゃるなら、やってみやす」
一個ずつ渡すと、おお、とか言いながら眺め回して収納する。
歩き回って十数歩で四人とも足を止めて掘り出した。
ダンジョンの地面を、砂でも掘ってるみたいに掘る。これも術技か。涸れ川の時は川底だからだと思っていた。
「おっしゃ! ありやした」
直ぐに銀塊が出た。得意げにこちらに見せる。
「それは、調達師長殿にお返しする」
「そっすね」
見本は上げちゃうつもりだったんだけど、返って来るならそれでもいい。
「あと四十以上あるから」
「あいっす」
本日の残業終了、と思ったら、夕餉までにもう一箇所掘れると言われて残業続行。
採掘人が掘れるのが判ったので、ご赦免になった。
翌朝、古金の他に記念に銀塊を三人に渡す。
銀はいくらでも需要があるので、北門軍には恒久的な収入源が増えた。
送ってもらって、北門で昼餉をご馳走になったが、守護将閣下に女の好みを聞かれる。
「採集人は兎も角、文人二人は家に置くのであろう。そなたは何れ魔都に赴く身であろう。武人の女が二人は必要ではないか。どのような体付きが好みだ」
「引き締まった小柄な者です」
「斥候にはいくらでもおるぞ」
「来年、下士官養成所で見つけようかと思います」
「姉の孫の一人が今二年だ。気に入ったら、考えてやってくれ」
「はい、生死の係わります事ですので、お約束は出来ませんが、宜しくお伝え下さい」
「無論だ。見もせぬ者を誰の子だからと仲間にするような者に、身内は預けられん。それでこそ真の探求者よ」
なんか、合格したっぽい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます