第14話 魔窟探検の準備

 持ちこまれる物が少なくなったので、近衛軍に出仕するのは十日に一度でよくなった。

 礼儀作法は、国王陛下から諸事無礼お構い無しの赦免状を頂いたので、宮廷貴族並みのものは必要ない。

 陛下に無礼を働いていい訳じゃなくて、礼儀がなっていないので無礼打ち、にならないと言うもの。

 どこかの学校に行くなら、九月十日までに願書を出さないといけない。

 足りないのは戦闘力なので、行くなら下士官養成所か。そもそも今更学校に行く必要があるのか。


 同世代の子供と知り合ったり触れ合ったりする必要はあると思う。

 でも、お茶会なんか出たら、悪い虫にたかられまくる。親が地方の上級民程度の茉莉花は、連れて行っても控えの間に待機させられるだけで、虫除けにならない。

 家に居ても、ご正室が悪い虫をたけようと狙っている。

 分家したら、様々な懇願と言う名の要求が正面玄関から入って来る。


 現実逃避で出来る事をする。まず、茉莉花を囲われ者の上の情人にした。親許には古金百枚を送った。

 情人は恋人の意味もあるが、愛妾みたいな感じだ。身分的にこれ以上は望まない。能力の高い子を産むまでは側室は遠慮する。

 近衛府に出仕すると軍司令閣下に呼ばれて、手金庫の物々交換をした。閣下が二つ。秘書官の人が一つ。

 交換が終わった後、相談を持ち掛けられた。


「下町の道具屋には、それなりの数の動かしてしまった手金庫があるらしい。石を入れて売ろうとした愚か者の所為で誰も買わんが、捨てるに捨てられぬそうだ。選別してやってはくれぬか」


 閣下が例の店に通うのに付いて行けば儲かる、だけの話なので承知した。

 入手経路別に分けておいてもらったら、借金の形二十四、遺産買取十だった。買取は手付かずの十分の一の五金だそうだが、意外に高値で買い取るんだな。

 偽物は遺産二に対して借金の形十四。偽物は爆発したら百金払うと言って、閣下がぶち壊す。

 その間に買い取った本物を開けて、悲喜こもごもの店主達は帰った。

 さすがに邪魔なので十箱空にして、空箱もぶち壊してもらう。

 ぶち壊し代として閣下に一箱、良い女の店主にショバ代として一箱上げた。

 十六箱分儲かってしまったので、気が大きくなって護衛に一人十枚ずつ上げて、一緒に帰ってもらった。

 閣下は一人で帰れるし、別の用もあるので店に残った。

 

 お昼を食べてのんびりしていると、帰宅した兄上が十六箱儲かったのをばらしてしまう。

 護衛の人が話したのだそうだ。買い取った店の店主も知っているので、いずれ露見したのだが。

 不労所得みたいに思われて、しょうがないので百枚ずつ配る。

 兄上がにまにましながら吾を見る。


「なんとも有り難い術技だ。そなたを茨回廊いばらかいろうの魔窟に連れて行ければ、鋼銀も手に入るのではないか」

「まだ早い。何れは霊鋼銀を持ち帰る者になるだろうと、我も人から言われているが」


 父上は当然反対してくれるが。


「あの辺りまでなら、もうまったくの荷物ではないでしょう。西門巡視隊が月に一度は行きますから、同行させてもらえば宜しいのではないでしょうか」

「帰りはどうするのだ」

「近衛と王城警備の有志に迎えに来てもらいます。藍玉の術技を試すと言えば乗ってくるでしょう」

「来るか来ないかすら判らんのか。相変わらず、杜撰だが」

「いっそ、軍司令閣下に話を持っていけば良いかも知れません。あそこでそれなりの量の鋼銀が拾えたら、軍の仕事としてもおかしくないし、藍玉の武器も造れますよね」

「閣下がご承知下さるなら、良いがな。そもそも、藍玉は行きたいか?」

「急にやる事がなくなってしまった感じなので、安全なら行きたいと思います」


 兄上と愉快な仲間達に連れて行かれるのはいやだけど、近衛軍が動いてくれるなら、ダンジョンは行って見たい。

 兄上が上申したところ、近衛軍は動けないが、管轄の王都警備軍西門軍が積極的に動いてくれることになった。兄上は行けません。

 ちょろっと行って、迎えが来るまで野営して待ってるなんて杜撰なものではなく、腐れ谷と同じ野営が必要らしい。


 準備期間があるので、こちらも準備する。金の知力の指輪と理力の指輪を八つずつ揃えて、囲われ隊に来てもらう。

 吾の部屋に十人は狭いので、父上の許しを得て広間を使わせてもらった。

 全員にペアの指輪と古金二枚を渡す。


「吾はまだ多くの女人を必要としないが、そなた等のことはみな好ましく思っている。吾が家を持った時には家人になって欲しい。無論ならなくとも良い。今の吾の気持ちとして受け取ってくれ。祥泉、佳楊、茨回廊の魔窟で野営することになった。付いて来てくれるか」

「はい、どこへなりとお供致します」


 祥泉が即答し、佳楊は「はい」とだけ言って頭を下げる。


「では二人はこれを受け取ってくれ。霊力の首飾りだ。学業が遅れてしまうからな」

 

 感激しちゃって言葉が出ないようだ。

 添い寝役確保。こちらで用意しておかないと、西門守護将閣下に悪い虫をたけられてしまう。

 こちらの手勢としては、雨季討伐の郎党五人衆が付いて来てくれる。戦力は西門軍で足りているけど、初めて行く場所で知らない人ばかりじゃ怖い。


 準備が整ったので、顔合わせの挨拶に行った。問題がなければ明日出発になる。鋼銀が定期的に採れるなら利益は計り知れないので、西門軍の雰囲気が尋常じゃない。

 西門守護将閣下は軍司令閣下の遠縁の女性だった。こちらの情報は全て知られているものと思う。

 鎧の面積が少ない若い女がやたらとうろついている。武人としては小柄で細身。武人同士でも、斥候向きの小柄な者が生まれてくるので、それなりの数がいる。

 目に付くように動き回る以上のアピールはして来ない。

 何れ魔都に行くなら武人の仲間は必要なのだけど、下士官養成所で探そうと思っている。

 武人用のダブルベッドに四人で寝た。魔境じゃないので、精力は余ってなかったのだが。


 何も問題がなかったので翌日出発となった。

 探索隊長も女性で、二人成人した子供がいるそうだ。この世界の常識では五十歳以上になる。

 食糧事情が悪くなければ、武人は年を取るほど強くなるので、子供が何人かいるとか孫がいるなどは、強さのアピールである。

 銀塊の谷は西門軍の担当だったので、吾の護衛役は誰も口には出さないが役得も期待されている。

 異様に高い士気で、この辺りの支配種の樹上性の大イタチが葬られてゆく。

 

 この頭胴長が一椀から二椀のキノボリイタチがいるので、猿がいない。

 猿がどれだけ大きな群れで入ってきても、敏捷性が高く狡猾なイタチに一匹ずつ削られてしまう。

 イタチは単独なので、人間の群れなら対処可能。

 地上の主力は、数は力の小型の狼の群れだが、実力差で押し切る。

 飛斬や飛突の出来る武器が大量に手に入ったので、遠距離から一方的に殺戮が出来る。


 何の苦も無く、中の道が茨の茂みのように繋がっていて、うっかり入るとどこがどこやら判らなくなる茨回廊の魔窟に到着した。

 マッピングはされているけど、分かれ道だらけで、現地点が地図のどこなのかが判らない。

 魔窟は異空間ではないのだがどこでも、斥候や採集人が標準装備で持っている東西南北の感覚がなくなる。

 何度か出入りすると、入り口がどの方向にあるか判るようになる。

 洞窟の入り口に野営の準備をしている間に、斥候の人に茉莉花と二人で少し奥に連れて行ってもらい、出るのを繰り返す。吾も採集人の亜種らしいので、謎の方向感覚がある。


 文官二人は瀕死にした魔物に止めを差してパワーレベリング。戦闘技術はいらないので基礎能力の嵩増しをしてもらっておく。

 ここでの採掘が恒久化したなら、基礎能力が高ければ最低囲われ者にはなれるので、囲われ隊の残り六人も順に連れて来てやろうと思う。

 吾と茉莉花が入り口が判るようになったら、霊核がエネルギー源の明かりを持って、少し入ってみた。


 普通の岩で出来た洞窟なのだが、道が広い。5ナンバーの自動車ならすれ違えるんじゃないだろうか。

 地面は草の生えていない荒地のようだ。

 魔窟の魔獣は生物ではなく、倒すと砂のようになって崩れて霊核を残して消える。

 ここの魔獣は外と同じでイタチと狼だが、狼も単独で、数はそれほど出てこない。


 奥に行くほど大きくなるが、単純に強くなるだけなので難易度はそんなに上がらない。

 最奥まで行ってもコアもなくボスもいないそうだ。

 中の魔獣が外に出ることはないが、一定数で飽和状態になると霊気が外に漏れるらしく、ほっておくと外の魔獣が魔獣が強化されるので、街道や人里に近い場所にある魔窟は定期的に討伐しないといけない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る