第13話 新しい術技

 昨日発見した古溜まりの更に下に、十五あった。その先にはない。ここは一種の鉱脈なのか。

 普通に埋もれている場所に旗を差しながら、入り口まで戻った。

 もうする事がないので、発掘人達の変なテンションの掛け声を聞きながらお昼を食べて、大ネズミ四匹、ムササビより大きいリス三匹獲って帰って来た。

 リスは懐くなら飼いたいけど、ネズミと見た目が違うだけで凶暴な中身は一緒らしい。

 見た目は可愛いのに凶暴な小動物。すでに家にいる。


 夕餉の前に、護衛隊長と明日の打ち合わせをした。

 普通に討伐と採集をしようと思ったのだけど、北東に山と山の間の広い切通しみたいな谷があって、かなり良い魔獣の素材が落ちているそうだ。

 両側の傾斜に植物が生い茂っている谷なので、古い物はどんどん深く埋まってしまうし、掘るのも普通の勘では無理。

 吾の能力が生物の死体に反応するかの実験になる。

 やはり、本物の戦闘力のない子供をそこまで連れて行けるのは、今の時期だけ。

 行ける時に行っておきましょうとなった。戦闘訓練はもう少し魔物が増えてきても出来る。


 夕餉は調達師様に囲われ隊とする。分を弁えていると言うのか、変にぐいぐい来ない。

 全員六位以下の貴族の娘で、五位と六位は丁度殿上人と地下人の違いで、階位が一位下なだけではない。

 五位の正子は、娼婦の真似をして男に媚を売ったりしない。


 夕餉を食べ始めた時に、漸く発掘人が帰って来た。個人事業主が遅くまで働くのは勝手だが、護衛も帰れない。

 掘った銀塊の二割が軍に入るので、サービス残業ではないが。

 明日はどうするんだろうと思いながら見ていると、大型のゴミ箱みたいなのにどさどさと銀塊を入れて行く。

 入れたかと思うと下から出て来る。自動カウンターか。中々終わらないので、夕餉を済ませる。

 食休みをしていると、警備軍責任者がやって来た。


「本日は、ありがとう御座いました」

「お役に立てて幸いでした。全部掘ってきたんじゃないですよね」

「はい、古溜まり二十だけです。しかし、あの者達は明日は無理ですね。旗を立てて頂いたので掘るだけですので、普通の採集人にやらせます。魔獣の増加もありますので、無駄な時間は掛けられません」

「お気を付けて」

 

 あれ? これやばいんじゃないか。誰でも掘れるなら発掘人失業するよ。

 銀物屋みたいに術技までいかない勘を持っていたんだろうけど、吾がいるとそれが生きなくなる。死んでしまうと勘を持った者がいない。

 ここの発掘だけで暮らしてるってことはないか。別のところで探していれば、勘を持つ者は絶えないか。

 銀は消費材として必要なので、ここは毎年吾が旗立てるの頼まれるだろうけど。

 どうするかは、国が考える事だね。


 翌日、護衛隊長に確認すると、ここは優良鉱山だけど他にもあるし、掘る技もあるので失業もしないが、旗の下ばかり掘っていたら個人的には勘はなくなってしまうだろう、と言う事だった。

 まあ、杞憂だったかな。

 銀塊は国に任せて、北東の腐葉土いっぱいの、通称腐れ谷に行った。昨日から安全が確認されているので、採集人が入っている。

 ここは銀塊の谷と逆で、北に向かって緩い坂になっているので、北には良い物があるはずなのだけど埋もれ易い。

 掘るのが得意の工兵隊五人が付いて来ている。


 一般の採集人がいなくなった辺りで探索すると、直ぐ側に反応がある。

 腐葉土に成り切っていない土を一腕ほど掘ると、長さ一腕足らずでやや曲がった、先が尖った黒曜石の棒が出て来た。

 収納すると、火属性黒剣豹の左犬歯だった。右左まで判るのか。この長さでサーベルパンサーだとすると、虎はどうなんの。


「黒剣豹の犬歯、ですが」

「良い物です。鋼銀と同等の素材です。調達師殿の術技が魔物の素材にも使えましたね」

「はい、これで、更に戦力強化に貢献できます」

「お願い致します」


 全体によっしゃーみたいな雰囲気になる。

 ファンタジー金属の鋼銀と霊鋼銀は属性に関係ない装備が造れるが、ダンジョン的な魔窟に行かないと得られない。

 属性縛りがあっても、こんなに簡単に同等のものが手に入ってしまうのは、倉庫暴きに似たものがある。

その後も鋼銀同等の地属性、火属性、風属性の素材がごろごろ見付かる。山の中なので水属性はない。

 帰投して、工兵隊に古金を一枚ずつ上げる。買い取って貰わないと利益は確定しないけど、今日一日だけで相当儲かった。

 もう戦闘訓練は無しにして、通い続けようと思う。


「後何日行けるでしょう」

「安全を考えると五日です」

「ではその間はあそこに行きたいのですが。宜しいでしょうか」

「それは、こちらからお願いしたい事です」


 予定は未定で、吾の術技が魔物素材にも有効だと判ったので、二日後に近衛軍の増援部隊が送られて来て、谷の入り口に野営地を設けた。

 猿の群れと飛行型が復活すると、どれだけ警戒しても不測の事態が起きる可能性があるので、最大十日間に決めて、五十人の護衛と共に奥に出撃する。

 官吏養成所のパワーレベリングキャンプは終わってしまうのだけど、二人は付いて来てくれる。

 囲い者でよければして構わないんだけど、吾が攫われる危険性がある内は、止めておく。


 少し奥に行くと、狼の群れが復活していたが、近衛軍選抜部隊に勝てる訳もない。

 五腕以上掘らないと出てこない物もあったが、十人に増えた工兵隊が苦もなく掘り出す。

 じわじわ奥に行って、七日目、巨大な鳥と思われる骨を発掘した。

 場所は取っているが骨なので、丸ごと収納出来た。


【風属性嵐紅鳳ランコウホウの白骨死体 死体暴きの術技を獲得】


「なに、それ」

「どうされました」


 心配した警護隊長に覗きこまれた。


「新しい術技を獲得したようです」

「それは、おめでとう御座います。どのような術技でしょうか」

「死体暴きと言うのです。埋まっている魔物の死骸を見つける術技です」


 あのよう、神様、そのネーミングセンス、なんとかならない?


 墓荒らしとどう違うのか、死体暴きを意識すると、価値のある物では反応のなかったところに何かあるように感じる。

 掘ってもらうと、短い牙や爪が一本出て来る。それだけでは何も造れないが、同じ物を集めると、良品が出来上がる。

 幾つかに折れた角なんかも、近くにあっても一欠片ごとだとお宝に反応しないが、魔物の死体としては反応する。

 予定の限界、十日で撤収した。近衛軍は雨季の討伐でほとんど人的被害がなかったので、増援を呼んでもう少し居座る案もあったが、吾の安全が優先された。

 家に帰れば茉莉花一人でよいので、二人には古金十枚渡して一旦別れた。

 分家を起こすなら、秘書、用人、家人頭、女中頭は必要なので、どれかになって欲しいと思うので、名前と身元を聞いた。

 リーダーが統計局みたいな諸事記録処亮の次子で祥泉ショウセン、二番目は食糧庁的な国倉番主典の庶子佳楊カヨウ


 嵐紅鳳は奥地の魔獣で、生息地に行っての討伐は不可能。縄張り争いに負けて南下して来たのを討ち取った例はあると言う結構な代物だったので、全身骨格だけでも大手柄だった。

 おまけに大量の銀塊と魔物素材。

 国王陛下が訳判らなくなってしまって、官位が一つ上がって、六位の下、近衛軍調達師長にしてもらった。


 分家の当主、正子同等で、お父上は父上、ご正室様はご正室、ご側室は名前呼びで橙枇杷トウビワ殿となった。

 子供の方はなった順番は変わらないので呼び方はそのままだが、姉上がびびる。

 どれ程出世しようとずっと弟だと言ってやると、安心して土産物を要求してきた。

 輝く白さの塊を出して渡す。


「今回は、このようなものしかありません。古金一枚より安いんですよ」


 光物を見て幼女は黙ったのだが、その母が黙らない。


「それはそれで、美しい物ですよ」


 女性陣に一つずつ配ると、父上が吾の手柄の記念に書斎に飾りたいとおっしゃるので差し上げる。

 兄上にも、記念ですからと差し出す。一人だけ上げないとかない。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る