第12話 新しい獲物(無生物)
収納の中にどれだけ食料を持っていても、それは非常食と見て、出来るだけ現地調達するのが野営の基本である。
なので、異世界キャンプ料理が始まる。当然、茉莉花は今日自分が採った物を手料理にして吾に食べさせたい。
野草やキノコをアク抜きして(キノコってアク抜きするんだっけ?)、鍋に入れて塩と肉入れて煮るだけだけど。
肉はプロの討伐人が獲って処理したものを貰って来た。血抜きが完璧なので、スーパーのブロック肉よりいいかも。
ちゃんと料理の修業もしているので美味しかった。
後は大人が設営しておいてくれた、難民用の一軒家くらいのテントで寝るだけ。
本気でサバイバル訓練をしに来た訳ではない。
さあ寝ましょうとテントに行くと、薄いベールを羽織っただけの中学生くらいの女の子がたむろしていた。
まだ黄昏程度には明るいんだが。母さまがお父上に「お呼ばれ」するとこのカッコで嬉しそうに主寝室に行っていた。
側室未満の夜の正装なんだが、家の外を歩く格好ではない。
例の度胸の有る女の子がリーダーっぽい。近衛軍が止めないのは、安全かつ必要だからか。
リーダー含めて全部で八人。この人数は覚えておこう。
一斉に挨拶をして、リーダーが代表で話す。
「調達師様、お連れになっていらっしゃるのはその者一人と伺いました。その者に情をお持ちでしたら、せめてもう一人この中からお選び下さい」
一夫一婦制の感覚が抜けなかったけど、体が地球人と違うので負担を掛けるだけか。
「では、君に頼もうか」
「はい! 有り難う御座います!」
ベールを開いたかと思うと、収納してしまう。あってもなくても大して変わらないが。
翌朝、何だか判らないジャングルっぽい鳴き声で目が覚める。ぽいじゃなくてここはジャングルの入り口だった。
とりあえず、しがみ付いている女度胸を引き剥がす。柵を作らないと言う事で、故意に名乗っていない。
「下の身分の者に古金を上げるのは失礼にならないと聞いてるが、この場合はどうなんだ」
「はい! 頂けるのでしたら、こちらの行いは古金の輝きに当たるとお思い下さったことになります」
「じゃ、一枚上げる」
「あ、ありぐわとう、ございますう」
目がいっちゃった。初めて古金が自分の物になるとこんな感じらしい。
落ち着いてから収納から服を出して着ると、静かに別れを述べて出て行った。
しつこくしないのも嫌われないテクニックだと母さまが言っていた。
上級民や下位貴族の娘は、将来のために常識として高級娼婦のテクニックを習う。カーマストーラみたいなもんだ。
実力至上主義で男女は意識されないが、能力の高い子を産む為に、下位の女が上位の男に従うのも社会常識だ。
一見男尊女卑だが、能力が低くとも女はワンチャンあるが能力の低い男は洟も引っ掛けられない。
「茉莉花も受け取ってくれ。昨日は頑張ってくれた。二枚な。夕餉も美味しかった」
「お役に立てた事が何よりの喜びで御座います。これからも、ずっと旦那様のお役に立てるよう精進いたします」
反応が初々しい。ご正室様が十枚配る時に茉莉花も十枚上げているが、朝上げるのは初めてだ。
もう一回抱きたくなったが、我慢して起きる。キャンプなんだし。
朝餉は用意された物を食べる。お貴族様のお子様のなんちゃって野営である。
食休み中に護衛隊長に相談された。
「昨日の報告では、大型の討ち漏らしは御座いません。本日は討伐隊と同様の深さまで行かれてはどうかと考えますが、調達師殿の体調は如何でしょう」
「それは、問題ありません。宜しくお願いします」
安全なら少し奥に行って、魔都だけではなく、魔物の領域の魔境でも宝を見つけられるか試すのも、今回の目的の一つ。
既に先行している討伐隊を追って、重役出勤のお貴族様が走る。
全身に霊気を廻らせて筋肉の一時的な強化をすれば、大人の武人の巡航速度には着いて行ける。
程なく討伐隊に合流した。格上のこちらの護衛隊長が声を掛ける。
「状況は、如何か」
「現状問題ありません。明日はこの辺りまでなら採集人を入れられるかと思われます」
安全が確保されたので、探索に意識を集中すると、十腕程度離れた凹みに何かあるように感じた。
討伐隊の人が細身のスコップで掘ると、拳大の光る白い塊が出て来た。白銀と言うか完全な純銀か。
「銀て、こんな感じで出るんですか」
「埋まっているのを見付けられる術技はないのですが、地形などで判断して、ある程度当たる勘で掘ります。谷全体掘り返したりしています」
鉱山だと思えば含有率はまだましかも。やはり、術技まで行かない勘はあるようだ。
「この辺だと北西の谷に毎年発掘人が入っています。宜しければご案内します」
討伐隊の中から十人くらいが案内してくれる。
銀塊はリポップするらしい。この辺りで発掘作業が出来るのは今の時期だけなので、安全確認が終わるのを、プロの銀塊掘りが野営地で待っているそうな。
連れて行かれたのは、山の割れ目ではなく枯れた大河のような場所だった。北から南に緩く傾斜している。
広い坂の降り口が付いていて、そこら中に感覚が反応する。
取り敢えず一箇所掘ってもらったら、只の石かと思うほど銀塊が出て来た。
「ここでこんなに出て来るなら、あそこはどうなんでしょう」
指差したところに討伐隊が走って行って、がしがし掘る。ごろごろ出る。
終わらないんじゃないかと思ったけど、一応終わった。
疲れ知らずの兵が尋ねる。
「次は、どこでしょう」
「貴様ら、いくら掘っても全部調達師殿のものだぞ」
護衛隊長が注意する。
「そうなんですか? 今いる人数で頭割りの山分けは軍として拙いんでしょうか」
「いえ、それはお気持ち次第です」
「では、山分けで。もう一箇所なら二十腕くらい下の、右側です」
お昼までに何とか掘り終って、一人二十個以上になった。
何度もここの護衛に来ている隊員に聞いた。
「こんなにあるんですか」
「いえ、ここは古溜まりです。毎年同じ場所に出るわけではありませんが、出やすい場所があるのでそこばかり掘ります。掘られない場所に何度も出るとこうなります。勘の良いのが新しい場所を見つけて掘ってはいるのですが、ここは少し深かったので見付からずに、かなり溜まっていました」
「他にも大きな塊に感じる場所が随分ありますよ。ダダ広くて他に何もないから、すごく判り易いんです」
「手近かな所は、どこですか」
「もう、今日は残業は止めましょう」
帰ると発掘人を集めて、鉱区のくじ引きが始まった。旗を差して行けるように作っておいてもらう。
採集が出来なかったので夕餉は出来合いを、昨日来た囲われ者希望者と一緒に食べた。今日は全員普通の服を着ている。
一緒に食事をしたでけでも赤の他人じゃなくなるらしいので、リーダーに増やさないように言ってから、もう一人添い寝役を選ぶ。
大き目のテントを使わせてもらって、明日は早いので四人でさっさと寝た。
おなじみのジャングル謎鳥の声に起こされる。鳥じゃないかも。
二人目の子の期待感が風圧レベルなので、その子、リーダー、茉莉花の順に古金を渡す。
リーダーがとっ散らかった子に服を着せて、静かに出て行った。
身支度を整えて、朝餉の後の食休みをしていると、もの凄い視線を感じた。鉱区のくじ引きに当選した二十人の発掘人達だった。
数がぴったりなのは利権が絡んでいるのだろうか。休んでる気もしないので、出発する。
谷に着いて、川上に向かう。
昨日帰る前にどのくらい数があるか、ざっと見ておいた。
「上に三つあるので、三番まで付いて来て」
「あいっす」
背を向けると他の発掘人がごちゃごちゃ言い出す。
「そっちにあるのか」
「疑うなら替われ」
「そうじゃねえ、誰もあっちにあると思ってねえだろ」
上から雨季の洪水で流れてきた塊が見付かったのが始まりなので、上には古溜まりはないと思われていた。
完全な手付かずなので、来るまで発掘人には言わなかった。判ったら取り合いなるに決まっている。
疲れるだけなのに他のも付いて来て、一番が掘り始めたのを見ている。
二番三番を案内して戻ってくると、一番はもう銀塊を掘り出していた。
「後は入り口より下だが、三十ある。旗を立てて行くので、順番で好きなのを選んでくれ」
「早く掘ったら、二つ目やっていいんすか?」
「無理はしないほうがいい。下にもまだありそうだが、足りなければ抽選だ。外れても普通に埋もれているのを教える。見える範囲は全部判っている」
「すげえ! 古溜まりの調達師様すげえ!」
倉庫暴きよりましか。
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