第10話 真お宝発掘隊
確定後の好事家の遺品は、軍内で争奪戦を発生させた。
それには係わりたくないので、金製品と銀の剣の確定をしてお昼を食べて帰ろうとしたら、軍司令閣下の秘書官の人に呼び止められた。
「調達士長殿、体調は宜しいか」
「はい、問題御座いません」
「では、明日、また下町に行って欲しい」
「はい」
「明日は、軍司令閣下が行かれる」
「あの、書類整理は宜しいのでしょうか」
「統率の額冠に加え、精力の腕輪のお陰で捗った」
近衛軍司令閣下直属の五十人と共に、一昨日とは反対の西へ向かった。
軍司令閣下は近衛府に入る前は、西門守護の副将だったそうな。
レア物の大型魔獣の単独討伐で知られる猛将、近衛軍司令閣下を乗せた兵員輸送車が、被害店の店先に止まる。
泣き喚き怯える店員、転がり出て来て転んだ勢いで五体投地する店主、倉庫を見せろといきなり要求する軍司令閣下。
吾が良品と感じた物は全て買われてしまう。残るのは選り屑ばかり。
プレミアが付くと予想している物を定価で買っているだけで、強奪している訳ではない。
雨季の為の戦力強化だから、文句の言い様がない。供出だと思って諦めるしかない。
そもそも近衛軍司令閣下に面と向かって文句を言えるのは、国王陛下だけ。
二軒目は比較的に小さな店だった。見た目は日本人なら若くないくらいの、年配の雰囲気の女性が一人で店番をしていた。
「桂林閣下、この店には閣下にお似合いになるような品は御座いませんよ」
「本職を知りおるか」
「更にご立派になられたけど、お顔はそんなに変わっちゃいませんよ。一番強い武人は近衛になるのは国の決まりだけど、西で暮らす者であなた様を忘れる者はいません。古五角山羊殺しの瑞鷲様」
「そうか。まず、倉庫を見せてくれ」
「せめて三十年早く来てくれりゃ、裸になって穴を広げて見せたのに。もう冗談もなしに倉庫見せるしかないですよ」
「穴の中は、またの機会に頼む」
痛い腹のない住民は、閣下を恐れないようだ。
案内された倉庫には、大小の箱が乱雑に置かれていたが、奥に一塊何か良い物がある。
その手前に幾つか有る箱にも、持ち帰り物が入っている。
「この箱の中は、持ち帰り物の食器か」
「そうだってうちの親父は言ってましたが、確定してないんで。良物なら鑑定して売りゃいいのに、良物だって自信がなかったんでしょ。なのに買い込むだけ買い込んで、このざまですよ」
「閣下、少しだけお時間を下さい。この箱を退けますので。奥に何かあります」
「ああ、やってくれ」
「店主、箱を退けるのに、一度収納してよいか」
「そりゃ、構いませんが」
道を付ける為に、邪魔な箱を収納して、離れた所に出す。
「なんで子供一人にやらせてるんです」
「その箱の中の物を触ってみろ」
「なんで? え、確定してる?」
「収納するだけで持ち帰り物を確定出来る。銀でも一度に百以上が数秒の内だ。食器は石や土だからな。銀より
「そんな、いや、でも」
五十人の大人がぼさっと立っている中で、十二歳が独り働き、目的の箱に辿り着いた。
「閣下、この箱です。魔物製の武器が入ってますね」
「そいつは親父が義理で買わされた廻し箱で」
「百金でよいか」
閣下が出した袋を、店主が睨む。
「からかってるんですか」
「一昨日東で一箱を百金で買ったのだが。聞いておらぬか」
「近衛の師団長閣下が、三人掛かりで、なんかしたってのは聞きましたが」
「伝わり具合はその程度か。兎も角不足がなければ百金受け取れ」
「後で返せって言っても返しませんよ」
店主が金貨の入った袋を収納する。売買が成立。ヨシ。
「それはこっちの台詞」
刃渡り一腕の曲刀を取り出して収納する。
「火属性、紅魔鷲の気身刀、伸気二腕です」
閣下に差し出して、二人で悪い顔で笑う。
「ええ?」
「後は薬筒があれば欲しいが」
薬筒は二十本あったが、全部ハズレだった。
回った店は昼前に三軒、昼食後に二軒、軍司令閣下が精力的に働かれる。最近の近衛軍は残業が多い。
野営や砦での討伐戦なら半日勤務では済まない。
回復薬は三級が二つだけだったが、金の理力の指輪が二つ見つかった。なんで指輪ばっかり。じっと手を見てしまう。
理力が上がったと言って、金の小物の確定を帰りの車の中で済ませた。これ以上姉上用に死蔵させる訳にはいかない。
翌日出仕すると、次は三旅団長で下町廻りをしたいと言われた。
下町の道具屋は質屋も兼ねているので、借金の形に取った物や、遺産の買取が結構あるらしい。
近衛軍と同程度の激戦地担当の王城警備軍もやらせて欲しいそうだ。
直接装備を手に入れたいのもあるが、娯楽の種類が少ない世界なので、面白い事はみんなやりたがる。
術技を授かったばかりの吾を酷使して、壊してしまうのが心配なだけ。
安全が確保されていれば誰が主戦力でもかまわないけど、まったく知らない人ばかりは怖いので、兄上と郎党は付いて来てもらう。
吾が分家の当主になる可能性が出て来たので、茉莉花には家人頭か秘書になれるような勉強と、魔都に着いて来られる戦闘力を得る修行をさせている。
下町に行って翌日戦利品の確定、翌日は休みの日程で、近衛軍司令閣下、三師団長、三旅団長三組、王宮警備軍司令閣下、その三師団長、三旅団長三組のローテーションが決まった。
忽ち十本の指が理力の指輪で埋まる。
一家団欒の居間での夕食後に「開けられる様になったのではありませんか」と言ってご正室様が手金庫を出した。
お父上を見ると「やってみよ」と言われたので、開ける。
実は道具屋にあると、開けられるようになるかもしれないと言って買い取って開けていたので、かなり早くなった。
ご正室様は姉上、ご側室、母さま、姉さまに十枚ずつ配った。気前がいいな。
兄上が拗ねる。
「あの、自分は頂けないのでしょうか」
「そなたは、藍玉の兄で色々と得がありませんか」
「金子ではないのですが」
「頼めばお金がいくらでも出て来ると思ってはいけません。藍玉はその気になれば今でも分家出来るのですよ。出て行かれたらどうするのです」
無理を言うつもりはない、と言うことですな。
食休みの後、部屋に引き取る時にお父上に呼び止められた。
「手金庫を開けて疲れたか」
「いえ」
「ではもう一つ開けてくれ。直ぐでなくてよい。付き合いが増えた」
「道具屋にあったものを買い取って、開けてあるのがあります」
書斎で物々交換する。翌日、兄上にお礼を言われた。お父上、甘過ぎませんか。
六月一日、閲兵式があった。翌日、近衛軍司令閣下の執務室に呼ばれた。
「国王陛下が装備の充実にいたくお喜びになられてな、そなたは二格昇格して七位の下、近衛調達師である」
決定事項ですね。辞退するはずもないけど。
茉莉花を吾の家人にしてもらった。彼女だけ吾の呼び方が若様から旦那様に替わる。
その晩、寝る前に床に平伏された。
「どうぞ、生涯の忠誠をお受け取り下さい」
勿論受け取った。
三日後から、地方では魔物の居住地域に入り、凶暴化前の討伐が始まった。
リポップするわけではないので削っておけば減るのだが、早目に減らすと出生率が高くなるので、この辺りからが良いらしい。
銀物屋、金物屋に以前買わなかった薬筒を持って来てもらって、四級五級の入っているのを買い取って開けた。
一粒の回復薬の有る無しが生死を分ける事態はいくらでも起きる。
出たのは全部兄上に渡して適当に配ってもらう。そのせいで役得が増えるようだが、非常事態下なので、致し方ない。
この時期に獲れる、数の多い魔物の牙や爪では、価値のある武器にはならないが、革は雑兵には十分な鎧になるので、姉さまも忙しいようだ。
金物の板型のちょっと効果の高い健康ブレスレットを渡してあるので、無理はしていないと思う。
六月二十日を過ぎると、近衛軍も王城警備軍も遠征の準備に入った。
近衛軍の受け持ちは西の山付近。山は当然気温が低いので、普段から大型魔獣が棲んでいる。
間引きに行くのは無理なので、平地に降りて来たのを討ち取る。
これの特に大きい討ち漏らしが王都付近まで来てしまったのを単独討伐したのが、若き日の近衛軍司令閣下。
集団戦になれば兵から死者が出るのは避けられない大物だったので、多くの兵の命を救った英雄だった。
何時までも語り草になるような魔獣が、集団で押し寄せて来る戦場に、兄上は行かなくてはならない。
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