第9話 お宝発掘隊(都市型)

 まだ緊急事態でもないので、時間が来たら個人用の選別は中断して、大食堂の将校用スペースでお昼を貰う。それで帰宅予定。お役所仕事である。

 全て買い取った金の小物の確定の、持ち帰り残業はあるけど。

 服装の袖の模様が尉官の女将校が、兄上に寄って来る。ちょっと小柄で身体つきが武人じゃない。事務官か。

 師団の食堂なので、兄上の知り合いはいない。ハニトラ始められました。

 タダでやれるなら悪くはない女だと思うけど、身内にされるのはいやだなと思う。

 ちらちら吾を見てるんだよね。


 兄上に断られたら、吾に直接交渉を持ち掛けてきた。専用の女中がいるのを話してお断りする。

 定期で仕事に来るので、虫除けに茉莉花を連れて来ないと駄目のようだ。

 将校格なので、従者や従卒はいない方が変。

 自前で用意しないと、軍がハニトラ要員をたけて来るまである。

 明日従者を連れて来るので通行証を出してくれるように、手配してもらってから帰った。


 金物屋と銀物屋が軍に金の小物の良品を全部納めるようになったので、お父上と兄上の休日のアクセ買いは中止になった。

 その代わりに、残業の金の小物で家の者に合うのがあれば貰えるので、夕食後に確定した物の仲からまず姉上の分を選ぶと、針金型の強撃の二の腕輪が当たった。

 当然装備出来ない。当然怒る。


「大事な物なので、父が預かろう」


 トテトテやって来て渡された物を収納すると、お父上は姉上を膝の上に抱き上げて、なぜなぜやらよしよしやらされる。


「英知の額冠に強撃の二の腕輪か。瑠璃は将来は将官か」


 親馬鹿か。好感の指輪の悪影響ではなかろうか。幼女にこの系統の装備をさせるのは法で禁止すべきだと思う。

 姉上が大人しくなったので、兄上の分を選んだら、板型の強撃の二の腕輪だった。先に兄上のを選んでいれば二つとも兄上のものだった可能性が高い。

 まだ雨季までには時間はあるので、二の腕輪の二つや三つは出て来るだろう。

 食休みの後、家人を集める広間に兄上の従者をする五人と茉莉花を呼んで選択した。

 兄上と吾の従者用なら幾つでも良いと言われているけど、国軍の戦力に関わる物なので、二つ以上は遠慮する。

 全員金の装備を只でもらえるので感激してしまう。人間関係が時代劇っぽい。

 現場指揮官になる兄上に、この先の相談をした。


「武器はどうします。剣に限らず未鑑定の銀物なら、造った効果の付与された鋼物より安いんですよね」

「そうだが、瓦落多屋に行く時にこの者達も連れて行く。良い物があれば優先で選ばせて貰えるようになっている。店には防具もある」

「面白いものがあるといいですね」

「前から本物なら買いたいと思っていた物が色々あるのだ。まず偽物だがな。良い物は後で奪い返す心算なら、値など適当に付けているかもしれん。早く準備が整わんかな。楽しみでならん」


 楽しみにしていたのは兄上だけでなく、計画は二日前倒しになったのだけど、誰が行くかでだいぶもめたらしい。

 一番初めは何が出て来るか判らないが、良い物は先になくなって行くのは当然なので。


 第三師団、第三旅団選抜のはずだったのだけど、旅団長がいれば師団長は一日くらいいなくても平気とか、だったら軍司令だって一日いなくても問題ないとか、無茶苦茶な話になって、第一、第二師団長閣下の参加で落ち着いた。

 師団長が三人共いないのに、軍司令までいないのは却下された。


 今回こそ同僚が買い物に便乗する形なので、当然近衛府より中町寄りの我が家の門前で待って近衛軍と合流して、兄上の案内でかなり大きな古道具屋的な店に到着した。

 第三師団長閣下を先頭に店先に行くと、浅黒いのに血の気が引いているのがはっきり判る店主が、よろよろ出て来た。


「手入れ、ですか」

「何か、やましい処でもあるのか。買い物に来ただけだぞ。雨季の討伐用の装備を整える為に、市井に埋もれた物の発掘である。まず、薬筒を並べろ」


 震える手で並べられた薬筒は十五しかなかったが、二つ当りだった。

 幸先が良かったのだけど、店の奥の展示棚の裏が気になる。


「あの棚、動かせないか」


 意識的に横柄な態度をとる。

 誰かの子ではなく自分が官職を持つ身なので、下町の者に謙ってはいけない。


「色々入っておりまして、即座に収納は出来かねます」

「こちらの人手で動かして良いか」

「はい、どうぞ」


 変な虫とか出て来たらやだなと思いながら見ていたら、割と太い針金の腕輪が出た。

 店主が布で拭いて、薬筒を並べた台に置く。

 第三師団長閣下が圧迫面接をする。


「これは如何程だ」

「五金頂ければ、幸いで御座います」

「謙虚だな。良品なのは間違いないぞ」

「落としてしまったようなものですから」


 地属性の精力の腕輪だった。健康ブレスレットとはちょっと違う、性力含めた持久力が上がる。

 第三師団長閣下が笑みをこぼす。


「これは良い物が手に入ったな。軍司令閣下の書類仕事が捗る」

「良いのですか? 棚の裏に落ちていた物を軍司令閣下のお土産にして」

「気を使うのは判るが、持ち帰り物は全て魔都の何処かに落ちていた物だぞ」


 そう言われれば、そうですが。

 その後、店主に金製品を全部出させたが、四分の三は只の金細工だった。

 水属性理力の指輪が一つあったので貰って、残りは兄上が収納した。

 武器や防具があったら出すように言うと、銀の短剣と手槍ばかり出して来た。

 密着された時の武器として、手槍を愛用する者が多い。

 迂闊に動かせば自分も切れてしまう剣よりも、体に柄を押し付けるように使えば安全に敵に刺さり易いと考えられている。

 モンスターに圧し掛かられている時点で拙いんだけど。

 

 一椀の伸突の手槍が一本。一指の伸気の短剣が一振り。悪くは無いが、どちらも採集者の護身用向き。もう少し面白い物を期待していた。

 金の指輪が増えたので、店内を見回してみると、奥にある一椀立方の木箱の中が気になる。


「あの箱は何だ?」

「廻し箱と申しまして、仲間内で売れない物を廻すのです。目が違えば売れるかもしれませんので」

「手間になるが、出して貰えるか」


 やだとは言えないよね。


「どうぞ、箱の中をご覧になって、ご入用の物はおっしゃって下さい」


 この状況で良い物だと判っても、ぼれる訳はない。


「この手槍は如何程だ」

「五金で御座います」


 即座に支払われる。

 火属性で射撃の出来る飛突の手槍だった。拳銃みたいな物で、攻撃力は低いが小型の魔物相手なら、短槍より便利。

 これは兄上の従者の射撃が得意な者に渡した。


「後は、店の奥に何かあるようだが」

「倉庫に未整理の物が御座います」

「やましい物でなければ見せてもらおうか」


 権力を笠に着た貴族の小倅である。

 他人を入れることのない倉庫に押し入り、金目の物だけ漁る。

 一腕足らずの銀の剣が二本、ペンダントが四つ。

 剣は短いので売れなかったそうだが、どちらも二腕の伸突剣だった。軍の斥侯用になった。

 店主が泣きそうなんだけど、奥に一箱全部お宝の入った、正に宝箱がある。


「あの箱は何が入っている?」

「持ち帰り物の牙や爪などで出来た物でして、確定しなくても見た目が面白いので集める好事家がおりますのですが、なかなか売れません」

「あれを、箱ごと買うと幾らになる」

「百金、頂けますれば、有り難い極みで御座います」

「古金でも良いか」

「はい! ありがとう御座います」


 十枚渡して、さっさと箱を収納した。なかなか良い物が入っている。


「これは、全部一人が集めた物か?」

「はい、好事家が亡くなりますと、ご家族には場所塞げなだけなので、泣きつかれて買い取った次第の物で御座います」

「他にはなかったのか?」

「良均衡と好機吉日が呼ばれておりました」


 第三師団長閣下が凄む。


「どこだ! その店は!」

「い、今、地図をお渡し、します」


 店に戻って店員に描かせた地図を受け取ると、三人の師団長が店主を取り囲んだ。


「判っておろうな」

「手前は、お国に逆らう者では、御座いません」

「それでよい」


 直ちに兵員輸送車に乗って、近い方の店、好機吉日に向かう。

 連絡は来ていなかったようで、店番の小僧が奥に向かって叫んだ。


「旦那! 手入れだ!」

「それしか考えられんのか。只の買い物である。倉庫に案内せい」


 いきなり倉庫に踏み込むのは、ただの買い物じゃないと思います。

 この店は買い取ったのが少なかったので、五十金で一箱買う。

 別に置いてあった、魔物製の刃渡りが三指の小刀が二本、軍向きじゃなさそうな長さだけど、良品だったので家人用に買った。

 ナントカ鷲の爪製で風属性。切先から一腕、刃から二指の気が出る物で、爪製は全体が気の刀になる気身刀が多いそうだ。

 一本は兄上の予備になり、もう一本は家人の斥侯に渡す。軍の斥侯の人が羨ましそうに見ている。

 第三師団長閣下に急かされる。


「目ぼしい物がなければ次の店に向かうぞ。店主、戻ってくるので薬筒、持ち帰り物の金製品、銀の武器などがあれば、出しておけ」


 官製押し込み強盗団が三軒目の店を襲う。

 とっ散らかる店員、泣いて言い訳をする店主、兎も角ブツを出せと迫る三師団長。

 お笑い系の地獄図が展開されて、無事に好事家の遺品は近衛軍に回収された。

 別に十本くらい纏めて置いてあった魔物製の小刀で良品は一本だけだった。鋼鉄製と変わらないハズレが多いそうだ。

 水属性なら茉莉花のお土産にしたかったのだけど、火属性だったので軍が買い取る。五人が手を出して、最適応の人を選ばされた。


 近衛軍が撤収した後、三軒の店主から仲間内に三師団長の恐怖が語られたが、真の恐怖はこの後に訪れるのであった。

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