第7話 異世界都市鉱山

 お父上の出仕をお見送りした後、休みの日に部長三人と常務専務の買い物につき合わされる係長みたいな兄上と、近衛軍先遣隊のご到着を待つ。

 さほど待たずに、見た目は馬がいない豪勢な乗合馬車の、我が家の物よりちょっとごつい感じの大型の兵員輸送車が到着した。

 近衛第三師団の偉い人五人が、それぞれの従卒を伴って降りてくる。こちらは我々二人とご正室様、ご側室の四人。


 十五歳未満はこの面子と一緒は精神的に無理なので、子守役の母さまと残る。

 その上あちらの護衛が戦力になるとの申し出で、こちらの付き添いの家人は少なくした。

 全員早く行きたいので、師団長閣下とご正室様が代表で挨拶をして、吾が簡単に紹介された。


 師団長閣下は当然戦士系の武人のはずだけど、妙に普通の女性だった。身長は百九十センチ強の兄上よりだいぶ低い。

 ご側室と同じ斥候型の武人だとしても、師団長になれるのか。

 旅団長閣下は兄上よりは低いくらい。長身だけど細身な感じ。

 それぞれの車に乗り込む、と思ったら、兄上と一緒に近衛の兵員輸送車に拉致されてしまった。

 師団長閣下が仲間になりたそうにこちらを見ている。


「なにか、御座いますか」

「実はな、若気の至りで薬筒を買ってしまってな、今日まで捨てられずに持っていたのだ。石で構わんのだ、開けてくれぬか」


 他人の薬筒を開けるのはトラブルの元にしかならない。自分じゃ開けられなかったくせに、開けてもらっておいて、もっと良い物が入っていたとか言い出すのだ。


「着く前には開けられるかと思います」

「そうか、すまんな」


 三級以上の薬が入っているのは判った。一級だったらえらい騒ぎになるだろうなと思いながら、適当に時間を潰してから開けたら、三級だった。

 以上は三級も含まれるよね。

 師団長閣下は受け取ってうんうんと頷かれる。


「いや、胸の支えが下りた。無理を言って済まなかった。しかし、速く開くものだな。今までにない術技か」


 速かったのか。店で買ったのはゆっくり開けよう、と心に誓った。

 店には昨日の内に連絡してあるので、貸切札を出して、店主を中央に店員一同がお出迎えだった。

 主力が質実剛健の近衛軍なので過剰な挨拶は受け流し、千個用意された薬筒を選ぶ。選り屑どうするんだか。

 貸切なので、ケースの中ではなく、中央の台に乗せてある。ワゴンセールである。

 前回ここは二百で三だけど、次の店は二だったので、十五あればいい方だと思っていたが、十七あった。

 次は金製品の吾の理力が上がりそうな物を選ぶように師団長閣下に言われた。装備可能な物は吾が優先的に買える約束になっている。

 金製品はショーケースの中だが、ガラスの扉は全部開けてあった。


「七番の指輪を」


 三金払って受け取って収納。水属性の理力の指輪に確定。

 金で理力物は珍しいので、三十金くらいするらしい。

 装備して能力が上がったはずなので商品を見渡すと、持ち帰り物の小物の銀製品の、良いものと大したことがない物が判るようになっていた。

 師団長閣下にお話ししたら、良品は五十三個すべて購入になった。

 その程度なら誰かしら適応するだろうし、別の師団に渡してもいい。

 収納したら、水属性体力の腕輪があった。


「体力の腕輪がありました。これはいくらでしたでしょう」

「鑑定料を払えばそんなものではない。受け取ってくれ」

「はい、遠慮なく頂きます」


 遠慮するとお言葉に従わない失礼になるので、装着する。


「しかし、五十三、もう確定したのか」


 あ、しくじったか。自分用があったので脊髄反射してしまった。


「はい、銀の小物なら、この程度の数は大丈夫のようです。金の指輪のおかげでしょうか」

「そうか。これは助かる。安価で兵の戦力増強が可能になるぞ。下町の雑貨屋が楽しみだな。何が埋もれているやら」


 安い小物は時間掛けない方がいいか。雨季の討伐は生死が掛かっている。

 大き目の銀製品の良物も漁って、十七個購入。入れたら確定するのだけど、少し時間が掛かる振りをしてお渡しする。

 腕力が上がる風属性の強力の二の腕輪があったので、鑑定料で兄上が頂いた。

 いよいよ近衛軍上層部の装備の選別をしようとしたのだが、これ見よがしに置いてある七本の銀の剣が気になってしまう。


「あの剣の内、三本は良い物です」

「おう、買おう。水属性の物で装備出来るなら受け取ってくれ」

「はい、有り難う御座います」


少し時間を掛けて、確定を報告する。一番小さい細身の刃渡り一メートルの剣が水属性で、切先から二メートル気が伸びる伸突剣だった。

 振ってみるとアルミ製じゃないかと思うくらいに軽い。片手で使えるので貰った。

 もう一本も長さは一メートルだが刃幅が倍くらいある。風属性で気の斬撃が飛ばせる飛斬剣。

 こちらは兄上が頂いた。少尉で小隊長にはかなり贅沢な性能なのだけど、吾の身内の安全は優先される。

 三本目は刃渡り百二十センチで柄が少し長く、両手でも使える所謂バスタードソード。大柄が多い武人は大概片手で振り回す。

 火属性の二指の伸気剣でこれが一番高い。

 連隊長殿のお一人が若手の有望な将校用に望まれた。


「残りの四本は外れか」

「いえ、三本に比べると見劣りがするだけで、駄目な物ではないです」

「では、買うので確定してくれるか」

「はい」


 どれも百二十センチで三本は一指の伸気剣で、火水風の属性が各一本。残りの一本は土属性の一腕の伸突剣だった。

 錬成物で買えば伸気剣は五倍以上、伸突剣は十倍すると言われた。


「銀の小物の良し悪しは、判りそうか?」

「ここにあります物は、すべて値段以上の価値があると思われます」

「全て買っても、確定してくれるか」

「それはご遠慮なく。兵の生死に係わりますでしょうから」

「おお、頼むぞ」

 

 三百以上あるのを、一度に渡されそうになった。


「五十ずつくらいで、お願いします」

「そうだな。焦り過ぎだ」


 偉い人は渡そうとした部下のせいにする。


「店主、少し時間が掛かるがよいか」

「どうぞ、ごゆっくりなさって下さい」

「この後、我等の金物も選ぶのだが」

「有り難い限りで御座います」


 大きな商談用の部屋に通されて、出されたお茶を飲みながら、やってっる振りしてゆっくりする。

 五十個出すと、従卒の人が属性別に分けて行く。

 三回目に出した中に霊属性の指輪があったが、軍の治癒師用にしてもらった。

 全部確定して、五人分の選別も終わってから、師団長閣下が、また仲間になりたそうにこっちを見る。

 さっき仲間にして上げたはずなんだけど。


「おっしゃりたい事が御座いましたら、おっしゃって下さい」

「金の小物を買わないのは、外れると笑い事では済まないからだ。属性が合っても自分に合うかは判らない。合っても欲しい効果か判らん。確定しており買う前に確認出来る物がこの値であれば、欲しがらん者の方が少なかろう。そなたが確定してくれるなら、十金以下の物は全て買い取りたい」

「今の所確定に負担がないように思えます。お時間だけ頂ければ、やらせて頂きます」

「そうか、まことに有り難い。せめてもの礼に、国への貢献として報告させてもらう」


 師団長閣下が兵員輸送車に搭載されている遠話器で近衛府に連絡して、金銀の小物の買取りは正式に軍のプロジェクトになった。

 文字通りの軍資金にものを言わせて、百個以上が買い取られた。

 次の店に行く間に、一つずつ出しては入れ出しては入れしながら、能力が低い振りをしたのを後悔した。

 次の店に理力の装備があったら、それのお陰にして三つずつにしよう。


 二軒目は金製品に力を入れていて、薬筒は四百の内三つしかなかったが、太い針金型の金の理力の二の腕輪があった。金の理力物の二の腕輪はかなり珍しいそうだ。

 銀の小物は二百、金は百五十。ギリギリの中物が百用意されていた。ちょっとあざとい。

 小物は全部買ったけど、中物は個人で購入になるのでお情けで二十。

 金物の指輪に霊力が二つ。板型の腕輪に妖精の腕輪があったので、軍としては大勝利だった。

 銀物は七十くらい大丈夫な気がすると言って三回に分けて店で確定した。

 金物と薬筒は家に持って帰って、兄上が軍に届ける手筈になって、お昼を食べたら帰るはずだったんだけど。


 薬筒を持って帰るのがめんどくさい気がしてきて、二の腕輪のお陰で一分で一つ開けられそうだと言って、食休みの間に開けた。

 二級が二つ、後は三級。今回は分けておいたので、二級は二つとも最初の店のからだった。

 あの店主は何か、はっきり術技にはなっていない、銀の良品を見分ける勘があるんじゃないかと思う。あの店は銀物屋と呼ぼう。

 殻と一緒に回復薬を師団長閣下にお渡しする。


「二級がこのように簡単に手に入るか。どうかな、体調は」

「別段、変わりはございませんが」

「もう一軒、行けないか?」


 専務さんが二次会に行きたいと言い出しました。

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