第5話 ちょっと展開が速すぎるのではなかろうか
次の店で合流予定だったが、こちらが早く着いたので、薬筒を選んでおく。二百個の内四個しか良いのがなかった。
三級ではないが石ではないのも判るようになっていた。三級以上の区別はつかない。
薬筒を開け終わってもまだ女性軍が来ないので、父上に言われた。
「この店は金の装備品もそれなりにある。適当に売値以上の価値のある物を選べ」
確定品なら五倍くらいの値段なので、小さい物は自分の勘を信じたり運試しで買う客が結構いるらしい。
むしろ確定して高く売るより薄利多売で儲かるようだ。
ご側室用に選んだのは、三センチ幅の飾りのないC字型の金の板の二の腕輪で、小さ目としては大きいので値が張るため、売れ筋じゃない品だった。外れた場合のダメージが大きい。
結果は火属性防御の腕輪で、この大きさでは当りの性能だそうだ。
お父上が手を出されたので渡すと、ご側室は大きく胸元を開いて肩を出した。肩じゃないのも出ている。
袖ばくばくなんだから、肩まで捲れるでしょうに。
そんな事をしている内に、ご正室様その他が乗った車が到着した。
幼女が飛び出してきて、がっちり両手を掴まれる。
「こちらのそうびをえらぶのだぞ!」
お父上を見たら、頷かれた。
「瑠璃からで良かろう」
初子にも甘いが、幼女にも甘い。
両手を掴まれたまま見渡すと、金の指輪が気になる。
即座に買われて収納すると、好感の指輪だった。その名の通り、好感度が上がるらしい。
奪い取った幼女が左の中指に嵌めるが、当然ぶかぶかである。
「そうびできんぞ!」
「金は十二にならぬと装備出来んのだ」
判っているなら止めて欲しいが。他人事のように言うお父上をつい睨んでしまう。
「瑠璃だけ置いて来れると思うか」
「思いません」
「何か、銀の物を見繕え」
一渡り見渡すが、これと思う反応がない。
「姉上には、銀はそぐわないようです」
「そうだぞ! 金の品をさがせ!」
「うむ。まあ、探してみよ」
何のつもりか、店主が大き目の金の未鑑定品を出して来る。
一番大きいんじゃないかと思われる、ツタが絡み合った意匠の、三日月形のティアラがヒットした。
収納すると、知力が上がる英知の小冠に確定した。
「また随分と良い物が出ましたね。これは十二になっただけでは装備出来ませんよ。沢山お勉強をしましょうね」
ご正室様に言われて五歳児が固まる。数字でステータスは出ないんだけど、知力に装備条件があるようだ。
「姉上、どうぞ」
手を出して来ないので、こっちから差し出してやった。
小動物が後ずさる。
「これは、母上がお付けになられましょう」
「そうお。では」
ご正室様が受け取っておでこに貼り付ける。一度貼ると、意識して外さないと気絶しても取れないそうだ。
勿論死ぬと取れる。
「英知となると、素晴らしいですね、やはり」
何がどう素晴らしいのか判らないけど。
「瑠璃は気にせず、甘葛の物を選べ」
お父上に言われて、昨日までいるのが判っていただけのお嬢様だった姉さまの手を取って、更に増えている金製品を眺めた。
「形の違う二の腕輪が二つですが」
「そうであれば片腕に二つ着けられる場合もある。一本の指に二つ指輪を着けると、効果の低い方が無効になるのとは違うぞ」
それも知りませんでした。選んだのは三センチ幅のC型の板の、技術力が上がる巧妙の二の腕輪と、太い針金が三重の輪になっている、器用度が上がる繊細の二の腕輪。
姉さまは服装系が得意な錬成師の織師で、母親のご側室と同じ火属性だ。
お父上に渡している間に、ご側室が娘の左腕を肩まで捲り上げた。
C型が嵌るのは判るけど、針金はどうするんだと見ていたら、腕に押し付けるとくるくる回って絡み付いた。
なんだか気配を感じてふと見ると、ご正室様の前に立っている姉上がなぜか可愛い。目が合ったらどや顔をする。
「なんですか、雰囲気が変わられましたけど」
「好感の指輪に銀の鎖を付けて首飾りにしたのですよ。『好ましい』程度に効果は落ちるのですけどね」
姉上ががばっと胸を開けてみせる。見せられたからといってもどうと言う事もない。
母さまの分は霊力が上がる妖精の喉輪。癒しの歌や演奏の効果が上がるそうだ。
金糸のレース編みのチョーカーみたいだが、C型なので首輪ではない。妖精っているのか。
一通り行きわたったところでお父上が手を出してきて、良知の二の腕輪が増えた。英知の一格下で、見た目は巧妙の二の腕輪と見分けが付かない。
ご正室さまが、自分は見てもらっていないと言い出し、なんの変哲もない鎖型の、体調を整える良好の腕輪が当たった。実益のある健康ブレスレットである。
吾と茉莉花もここでは選んでいなかったので、やってみたら、吾が機敏の指輪、茉莉花は索敵や採集の能力が上がる良感の指輪を得た。
凄く儲かった気分でゆっくり昼餉を食べて帰宅したら、だれも家族のいない屋敷に帰っていた兄上が、玄関前に仁王立ちしていた。
お父上が立ち向かってくれる。
「次の休みにそなたが主体になり、藍玉を中町に連れて行って良い」
立ち向かってくれない。
「なれば、今日は納得致しましょう」
「藍玉は良い子です。今日もこんなに良い物があったのですよ」
ご正室様がわざわざ英知の小冠を指し示す。
母さまの子でよかった。
夕餉までみんなで居間でだらだらしましょうとなって、薬筒を開けて行く。
短剣の柄は帰りの車の中で外して、降りる前にお父上に渡し済み。
薬筒は九個の内、八個開けた時点で三級七個だった。宝くじレベルだ。
こんなもんだろうなと気楽に最後の一つを開けて、また声を出してしまった。
「これは?」
自分の物じゃないので、兄上がつまらなそうに聞く。
「二級か」
「いえ、一級です」
一拍遅れてご正室様が「あら」と言ったきり、母さまのBGMも止まった。
最初に復活したのは、お父上だった。
「見せろ」
黒に近い濃紺の玉を出して見せると、怖いもののように睨まれた。
「
「はい、直ちに」
ご側室がこの場から逃げるように出て行き、お父上も立ち上がる。
「登城する。鋼玉、護衛として付いて参れ」
「はっ!」
「藍玉、橙枇杷が戻ったら、箱に回復薬と殻を入れろ。殻も目出度い物として献上する。諸事上首尾であっても、明日帰宅出来るか判らん。悪事が起きたのではないから、案ずるな。
「はい、お任せください」
お父上と兄上が出て行き、ご側室が四十センチ四方の全体が赤紫の布張りの箱を持ってくる。
指輪を入れる箱の大きいのみたいで、高さの真ん中辺りから割れて開くと、絹光沢の緩い敷き布に二つへこみがあった。
そこに回復薬と銀の殻を乗せると、蓋をしてご側室が出て行って、する事がなくなった。
話す事もなく待っていると、用人が出発の仕度が出来たと伝えに来て、全員でお見送りをした。
二級で部位欠損が治るなら、一級はエリクサーか?
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