第4話 アクセ買い

 茉莉花の授かりの術技「採集」は、索敵や周辺警戒も使える。

 田舎は大ネズミや野犬の群れなどの小型のモンスターが出るので、戦闘訓練は受けていて、護衛も出来る。

 魔都に付いて行けるようになるから、どうか長く使って下さいと頼まれた。

 昨日はお楽しみでしたよ。茉莉花にどのような事でもお申し付け下さい、なんて言われたのだけど、特殊な性癖とかないので、普通に仲良くしました。


 今朝の体調は絶好調だ。昨日まで着ていた、細い良質の麻の様な繊維の白無地の古墳時代みたいな服ではなく、魔物の蜘蛛の糸製の明るい青い服をもらった。

 茉莉花は吾の専属女中として、貴族街の外の上級民用の中町にも付いて来るそうだ。

 朝食は茉莉花が取りに行って部屋で食べる。終わってから居間でお父上を待った。


「顔色は良いようだな」

「はい、昨日より体が軽い様に感じます」

「では、参ろう」


 この世界には魔物の核で動く自動車がある。正門の外に豪華な乗合馬車みたいな見た目の、大型車が止まっていた。

 秘書の仕事をしているご側室も付いて来る。元々ご正室様の護衛兼専属女中として実家から付いて来た人で、小柄の斥候向きの武人だった。


 初めて出た街並みを、年齢より幼い子供のように見とれてしまう。

 建物はみな石造りだが西洋風ではなく、廃墟になっていないインダス文明のようだ。

 一台護衛の乗った車を従えて、宝石商らしき店に着いた。店主が叉手で出て来る。


「ようこそお越し下さいました」

「息子が隠された宝を見つけ出す術技を授かった。薬筒を選ばせたいが、良いか」

「どの様になさるのでしょう」

「ただ見て選ぶだけだ」

「それでしたら、普通のお客様と同じで御座いますので、ご随意になさって下さいませ」


 言質を取りましたね。吾が通った後は選り屑しか残らないのだ。

 入って左側の壁に大きなガラスケースがあって、番号を振ってある薬筒が二百個並んでいる。


「ここは銀の物の専門店なのでしょうか」

「いや、銀の扱いは多いが、金も取り扱っているぞ」

「一軒でこれ程あるなら、魔都で発掘するのはそれほど難しくないのですか」

「魔都の周辺に村や町の跡と思われる魔境がある。銀か金の小物しか出ないが、魔物が弱く比較的安全なのだ。後で話してやろう、まずは選べ」

「はい」


 客に触らせたら手品みたいな方法で入れ替えられるのが結構いるので、番号を指定して代金を払ってから店員が取り出す。


「八番と十四番、三十五番、七十二番、百二十四番を」


 一つ十銀だと二百なら二十金。大人買いしたら三級だけなら二十ないと儲からない。


「後は良いか」

「はい」

「では、装飾品を見るか」


 店の入り口からそれほど遠くない場所に銀製品が纏めてある。

 ネックレス、指輪、腕輪の他に、上腕に着ける二の腕輪。アンクレットはないのか。

 持ち帰り物と錬成師が作った物に分けてあって、持ち帰り物はすべて未鑑定の表示がしてあるが、錬成物は効果の他に適応する属性も表示してある。

 鑑定は術技で授かり、触るだけで判るが霊力と精神力を使うので、一回でそれなりに疲れる。銀製品はよほど大きくないと鑑定しない。

 持ち帰り物は全部宝物とだけ判り、錬成物は何も感じない。


「どうだ」

「持ち帰り物は価値がある物としか判りません」

「己に有効な物で絞れぬか。鑑定や識別の術技がなくとも、相性の良い物は感じる場合がある。なので、このようにして売っているのだ」

「やってみます」


 意識すると、ペンダントの中に良いように思える物があった。


「十七番の首飾りを」


 店主が出して渡してきたのを収納すると、水属性の理力の首飾りだった。理力は術技の威力に関係している。着けると、何か出来そうに思える。


「理力の首飾りでした。なにか、こう、出来る事が増えたように思えます。茉莉花、手を握って」


 手を取って彼女に合いそうな物を探すと、別のペンダントに反応する。


「六番の首飾りが良いようです」

「買ってやれ」


 何か茉莉花に良い物があったら我が買うように、昨日古金百枚分、千金貰っている。

 受け取って収納。水属性知力の首飾りだと判る。茉莉花に着けてやると、捻り出した様な小声で礼を言ってから、発情したみたいな雰囲気になる。


「藍玉」


 変な息をしている茉莉花から目を離して振り向くと、お父上が左手を差し出していた。銀製品の小物なんていらないでしょうに。


「あ、はい」


 そっと握る。赤ん坊の時は判らないが、意識があるようになってからはこっちから触るのは初めてだと思う。


「この辺りの持ち帰り物にはお似合いの物がないようです。錬成にはあるのですが」


 個人的に相性の良い物を意識すると、錬成物も反応する。


「錬成物はよい。小物以外にないか」


 見回すと、別のコーナーの銀の柄の短剣に感覚が反応した。長さに比べて鞘に幅があり、柄も太い。値段は金五枚。

 店主に聞いてみる。


「十二番の短剣は、錬成物のようですが未鑑定なのですね」

「形見分けを買い取りました物で、詳細が判りません。鑑定料を払って大した物でなければ金額以上の損をした気分になります」


 見てくれは何かありそうなので、置いておくと誰か買ってくと思って買い取ったらしい。鴨は現れなかったと。

 泡銭を持ってる人に振って見る。


「錬成物ですが、如何されます」

「特異な品の様であるから、そなたが良いと感じたのであれば買うぞ」


 渡されて収納すると、風属性の伸気の短剣だった。持って意識すると全体に二十センチほどの闘気の刃が出来る。

 頭脳労働系の術技を授かった者は使えない武技を、霊気量があれば使える霊法具だ。


「誰でも使える伸気剣です。二指ほどの闘気が刃全体に出せます」


 店主が怪訝な顔で吾を見る。


「四属性の男女の者に持たせて試したのですが、何も出来なかったのですが」

「柄が二重になっていて、被っているのを外さないと使えないのです。この柄もからくり箱ですね.。それを隠すために鞘を幅広にしてあるのでしょう」

「そんな」


 店主は助けを求めるようにお父上に目を移す。


「百金で、お譲り頂けませんか」

「我の護身用に最適である。売る積もりはない。藍玉、外せるか」

「外せるように感じますが、かなり時間が掛かりそうです」

「では、帰ってからの事にするか。店主、有意義な時を過ごせた。礼を言うぞ」


 高級店で買い物をした時の常套句なんだそうだが、この時は死体蹴りにしか聞こえなかった。

 店主が小声で答える。


「……お役に立てて、幸いで御座いました」


 次の店に行く前に、車に搭載された遠話器(魔物の核がエネルギー源の電気を使ってない電話)で屋敷に連絡して、残りの女性軍を呼んだ。

 鑑定する価値がない銀製品なんかいらないと思うのだけど、面白いので呼ばないと別の日に連れて行けとごねられる、とお父上がおっしゃった。


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