第2話 やったね! 家族が増えたよ!
お父上は宝物庫の外で待機していた家人に、ご正室様と五歳の姫様、ご側室と十四歳のお嬢様、母さまを居間に呼ぶように言いつけた。
四人ともまともに話したことがない。名前も名乗られたことがなかった。
こちらから話すことはないし、それぞれ一人なので、名前を知らなくても困らない。
後、近衛衛士をされている長子の若様がいる。
かなり背が高くて、十九指、別の言い方で一椀九指あると聞いた。一指が十センチ一椀が一メートルだと、メートル法がそのまま使える。
今日から若様は兄上、姫様は姉上、お嬢様は姉さま。
ゆっくり歩いて居間に行くと、全員アラビアンナイトっぽい薄絹を着て揃っていた。女物の部屋着は薄いほど上物と思われている。
外出用は男と同じ、アラブ風の緩くて長いワンピースが中心。
腰にベルトや紐、帯を巻くかは個人の好みで。
戦士系は男女とも緩いズボンを履く。
お父上がご正室様に、吾の改名と庶子にした事、母さまを側室に格上げする事と、魔都から出た宝として手金庫を探させたら、蓋の開いたのが見付かったと話した。
「開かなかったと伺っていましたが」
「開いたと言えば無心されるであろう。開いたのを継嗣にまで隠していたのは謎だが」
「左様ですね」
宮廷官になれる頭のいい人だと聞いていたのだけど、むしろだからか、あっさり受け入れた。
情報の流出源としては、この人が一番危ないそうだ。
正室は端女の産んだ子でも夫の血筋で優れていれば、自分の財産として実家や知り合いに自慢する。
言ってはいけないと判っていても、身内だと何かの拍子に言ってしまう事があるらしい。
知らなければ言いようもない。
お父上の収納から出された手金庫の蓋が開くと、金に対してドラゴンと同じ嗜好を持つ生物達が、そうっと寄って来た。
この面子は下品に詰め寄ったりはしない。
しばらく手金庫の中を見ていたが、ご正室様がお父上をじっと見詰める。お父上が圧に負けた。
「記念に、一人一枚、持つか」
「一枚、ですか」
「今は、な。更に宝物庫から見付かるやも知れぬ」
あと四つ確実にあるし、開いてないのは一つ金貨百枚だそうで、買い漁ればいくらでも手に入るのだけど、ここで大盤振る舞いも不自然なので、これが正解でしょう。
さっさと一枚ずつ渡して、認知の手続きをすると言って二人で書斎に逃げてきた。
お父上が本当に国に提出する書類を作成している間に、四つの手金庫を開けた。
「室が気付かぬはずはない。多少渡さないと何を言い出すか判らん。月に一箱なれば開ける者はいる。薬筒を開けられるところから始めて、宝を探す技能に付随する勘のようなものではないかと言えばごまかせよう。半分はそなたの取り分とする」
「宜しいのですか」
「自分で買って開ければすべてそなたの物だ。半分家に入れるだけでも、大した孝行である」
「そうおっしゃっていただけるのは有り難い限りです。月に一箱でも、市井の子ならば攫われるでしょう」
「一人で魔境に行ける程に、強くならねばな」
「はい。精進致します」
兄上の従者か魔物を狩る平民の討伐人になるつもりで、護身術以上の戦闘訓練を受けていた。
魔境でも入り口付近ならば、それほど危険な魔獣はいない。
途中の道が危ない。地球の中世でも旅自体が危険だった。
ここは道にはどこにでも魔獣が出る世界だ。弱いものでも集団や休みなしに襲われれば消耗する。
居間に戻るとまだ全員いて、お茶を飲んでいた。母さまも側室になって一緒に食べられるので、そのまま昼餉になった。
食休みをしながら、部屋を与えられる事や、将来つまらない女に嵌らないように女慣れさせるため、今夜から若い家人の女に性欲処理をさせる事などを言われる。文化的に五歳児にも隠さない。
生意気盛りの五歳児が、魔都に行けるようになったら自分のために良い装飾品を探して来いと、お姉ちゃんムーブをかましてくる。
正子だからではなく、年下でもお父上の子になったのは向こうが先なので、姉上である。ご正室様が次に子を産めば弟か妹になる。
平和裏に昼下がりになると油断していたら、ご正室様に不意打ちされた。
「藍玉、今日はもう疲れましたか」
「いえ、特に疲れたとは感じません」
「あなた様、いま少し宝物庫を探させても宜しいでしょうか。手金庫は幾つかあるとおっしゃいましたよね」
「藍玉が疲れていないのであれば、やらせてみるか」
二人で宝物庫に行って、作戦会議をする。
「また一箱見つけた事にするが、時間潰しに他の宝物を探してみぬか。ガラス器は判らぬかな」
「はい、やってみます」
お父上は魔都から出土した「持ち帰り物」のガラス器マニアで、ここにもかなりの数が仕舞ってある。まとめて置いてあるのを触って、似た感触を探す。
先祖が集めて何処にあるか判らない物もあるかもしれない。
奥に仕舞いこまれた箱から、ゴブレットや皿を発掘出来た。
上機嫌のお父上と居間に戻ると、ご正室様の第一子、昨日まで若様だった兄上が、帰宅されていた。
今日からは弟としてお役に立てるように勤めますと挨拶すると、早速役に立って古金を見つけたそうだなと返された。
ご正室様が悪い笑顔でお父上を見る。
「今も、更に見つけに行ってくれていたのですよ。あなた様、それで、首尾はいかがでした」
「また一箱見つかった」
「沢山になったのですね。では、この度は二枚頂けましょうか」
「ああ、良かろう」
「自分は、三枚頂けるのですね」
兄上がお二人の会話に割って入った。
「ああ、そうだな」
「藍玉、近衛府は格は高いが市井との接触がないので、余禄が少なくてな。古金三枚は非常に助かる」
「兄上のお役に立てて幸いです」
もの凄く見られている気がする。怖いのでそっちは見ない。
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