異世界出世物語
袴垂猫千代
第1話 廃墟から金目の物を持ち帰る仕事を、なんと呼びますか
気が付くと、モンスターがいる熱帯化した平安時代みたいな世界の、四位の下という中位貴族の、庶子ですらない子供だった。
元は高級娼婦の母は側室どころか愛人でもなく、子を産む道具としか見られていない「囲われ者」なので、家臣の家人扱いで、父親を殿様と呼んで育てられた。
殿様の名は
一人称に俺がない。昔はおのれと同じ二人称の罵り語だったらしい、なんてことを知っているせいか。
囲われ者の子は十二歳になるまでは、仮の名しか与えられない。
早くに言葉を覚え、読み書き計算が出来たので、かなり期待されてはいて、いじめなどはなかった。
官位は十位からあるが、五位から上が本当の貴族、殿様は結構偉い。征夷大将軍だって最初は従四位下だったんだから。
更に各位が上中下に分かれていて、日本の官位とは違う。異世界なんだから当たり前だけど。
貴族の子供は庶子でなくても一人だと攫われるので、外出したことがない。
家に居る者は全員黒目黒髪で、髪はウェーブが掛かっている。顔立ちは日本人より堀が深く、肌は浅黒い。
この世界では十二歳になると、創造神から「授かりの術技」と呼ばれているスキルを一つもらえる。
経済的に余裕のある者は、身分が低くとも霊力の高い女を囲って子を産ませ、有能なスキルを持った家人を得ようとするのが普通で、技能が判るまでは当主の血筋の扱いにならない。
霊力量は術技と同時に生える空間収納の量で判る。
待望の十二歳になる真夜中がやって来た。
母さまに与えられた部屋で、殿様に家宝だと言う銀の板の二の腕輪(アームレットって言うんだっけ)を付けてもらう。
授かりの術技がより良いものになるそうだ。
深夜の十六時(この世界の一日は三十二時間)を過ぎて頭の中に浮かんだ言葉は「墓荒らし」だった。
埋まっていたり、隠されている価値のある物を見つけ易い能力のようだ。
なんでこんな能力になったのかは、心当たりがあった。
シンボルエンカウントのダンジョンRPGで、モンスターを避けて出来るだけ奥まで行って宝箱を開けるのが好きだった。
しかし、こんな不名誉な名前の能力を貴族の親が受け入れてくれるだろうか。
家宝の二の腕輪を回収した殿様に聞かれる。
「どのような術技を授かった」
「墓荒らし、でした」
「なんだ、それは」
「隠された宝を見つける力のようです」
殿様が渋い顔をする。
「魔都から宝物を持ち帰った者を、僻みで墓荒らしと呼ぶが、授かりの術技では、聞かぬものだ」
術技の有用性は判らないが、人聞きが良くないのは確かだ。
魔都はダンジョン化した廃墟で、行くだけでもかなり危険なので、どのような能力なのかの確認も難しいんじゃないだろうかと思ったが、殿様は見放さなかった。
採集系の術技の中で宝物に特化したものだろうということで、名前は兎も角使えない術技ではなさそうだから、明日検討するので、今は寝ろと言われた。
変な名前のスキルなので追放、なんて事にならなくて良かった。
翌朝、入るのが許されなかった書斎に呼ばれた。広さや用途からすれば執務室じゃないかと思う。
自宅にあるのは違うか? 今はそれどころじゃない。
朝出仕していないのは、吾の術技の検証をする為に予め休みを取ってくれていたのだ。
大きな骨董屋みたいな広い宝物庫に連れて行かれた。
宝物を調べたりするためのものか、四人掛けのテーブルと椅子が置いてある。
座らされて、涙滴型の大き目のペンダントを見せられる。
「魔都周辺から出る持ち帰り物の中では、比較的見つかり易い物だ。これの中身が判るか」
「見ただけでは、価値のある物だとしか判りません。触っても同じです。収納してもよろしいでしょうか」
「うむ」
収納すると箱根細工のようなからくり箱なのが判る。
「小さなからくり箱なのは判りましたが、中身は判りません。開けてもよろしいでしょうか」
「開けられるのか」
「はい。手順は判ります」
「やってみよ」
開けたら小さ目のビー玉ほどの透明な青い玉が入っていた。見た事がないのに三級回復薬だと判る。
ピルケースだったんだね。こんなのでいざと言う時に開けられるんだろうか。
「三級回復薬でした」
「出して見せよ」
見せると睨まれた。
「この力、けして他人に話すな。家の者、そちの母にもな」
「なぜ、ですか」
「これは容易に開けられぬ物だ。収納すれば開け方の手順が判ってしまうのはありえん。収納の中で物造りが出来る職人にもいない。未知の物を収納すれば確定出来る者もいない。魔都からは手金庫と称されるからくり箱が出る。開けられたなら古金と呼ばれている金の円盤が入っているのだが、無理に壊すと爆発する。それを開けるだけで暮らしている者もいる。開けられるならば、攫われたら一生そればかり開けさせられるぞ。毎日幾つも開けさせて捌けるのは王族か余程の豪商だろう。他国に攫われたら手の打ち様もない。有体に言えば、当国の上位の方々でも同じだ」
「わああ」
今の年齢相応に取り乱して頭を抱えてしまった。
生産系のチートだったら造ったもので反撃して脱出なんてのも出来るだろうけど、銭箱開けるだけの能力じゃどうにもならない。
「見ただけで、価値があるかないか判るのだな」
「はい」
「なれば、まずはそれだけの能力に見せ掛けよう。そなたは今より庶子とする。名を
「ありがとう、ございます、お父上」
本気で有り難くなって、涙が出てしまった。
「うむ。先ず、この辺りに何かあるか判るか」
探す意識で見渡すと、右側のラックに乗った、小引き出しくらいの箱に反応がある。
周囲は宝物だらけなのだが、人が作った物は宝物と認識出来ないようだ。
「そこの棚に乗った箱に、いくつか入っているようです」
「判るのだな。持って来い」
箱の中には銀のC字型の板と太い針金が幾つか入っていた。どちらも大人の手首より少し大きい。
「収納してみよ」
「はい」
針金の一つを手に取った。触ってもそこにあるのか判らない様な妙な感じがするが、収納すると【銀製 風属性守りの腕輪】なのが判る。
出して手に取ると、妙な感じが消えて普通の物になっている。
「風属性守りの腕輪、です」
「収納しただけで確定するのか。他のはどうだ」
残りの板型三個、針金型四個を収納する。
全部風属性で、筋力、腕力、防御力、敏捷性が上がる物だった。
話すとお父上は腕を組んで溜息を吐いた。
「持ち帰り物は鑑定の術技か属性と相性が良い者が収納して確定しないと、何であるか判らない。鑑定は一つずつしか行えず、霊力と精神力を使う。疲れてはおらんようだな」
「はい、何か減ったようにも思えません」
RPGなら拾い物イベントリに入れたら判るの普通だし、出し入れだけでMP減ったり精神疲労したりはまずないです。
「後は手金庫を開けられるか試すか。先祖が買ったのが幾つかある。開けられなかったのだが。別のなら開けられるのではないかと、無駄金を使ったそうな。見たくないのでどこかに仕舞い込んだ。判るか」
価値のありそうな物を探すと、少し離れた所の床の奥が反応する。
お父上に言うとその辺をごそごそして、ちょっと高さのある千両箱くらいの、全体に細かい板を貼り付けたような黒い箱を探し出した。
壊すと爆発するだけでなく、振っても音がしないし開ける前と後では重さが違うそうだ。
中身は濃い霊気でちゃんと開けると物質化する、とかかな。
収納したら開ける手順は判ったのだが。
「少し、時間が掛かります」
「よい。座してゆるりとやれ」
机と椅子のある場所に戻る。
こっちはずっと細かい板を動かしているので退屈しようもなかったが、どのくらいの時間が経ったのか、一枚板の蓋が開く状態になった。
正面で真剣な顔で見ているお父上の方に開くように向けて出した。
「開きました」
「よし」
お父上は蓋に手を掛けると、いかにも宝箱を開けますという感じで、ゆっくり開けた。こちら側からは蓋しか見えない。
「見よ」
言われて覗くと、オリンピックメダルくらいの表面がしわしわの金の円盤が、高さの半分以上入っていた。
発光しているような輝きだった。ダンジョン産ならば完全な純金かもしれない。
「凄いですね」
「うむ。美しい。五つ六つあったはずだ。探し出せるか」
「やってみます」
手金庫を意識して歩き回り、更に四つ見付かった。
「開けますか」
「今はよい。存外疲れているかもしれん。室に開いた物を見せに行く。隠された宝物を探し当てるのは、術技ではないが、発掘人と呼ばれている者が勘として持っている。そなたははっきりと判り全てを漁ってしまえる。であるから墓荒らしなのだろう。そこまでは話しても良いか」
細かな打ち合わせをしてから、宝物庫を出た。
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