天界行って6話で合体!

「げ、どうしてアンタがここにいるのよ、それに……」


「ほ、ほげぇ、あ、ど、どうも~、ご無沙汰しておりますでござる~……」


「サクリエル、アンタ、よくもまあ、そんな嫌いなヤツに道端で遭遇しちゃったみたいなリアクションと、魔の者っぽい衣装を着てボクの前に」


「ひ、ひいぃ、すいません、死んで詫びます!」


「……貴様、土下座が似合い過ぎではないか?」


 一切の躊躇いなく服を脱ぎ、綺麗に折りたたむとその横で深々と土下座をかます全裸のエンシェントデーモン、サクリエル。その間、わずか3秒。あまりにも手際が良すぎる土下座に女神すらドン引きだ。まったくもって情けない、こやつにはプライドとか羞恥というものはないのか。


 元々最高位の熾天使であったはずのサクリエルと、創造主であるアンフェルティアとの間に一体何があったのか我にはわからぬ。が、まさかのあっさりと我らのストーキン……隠密な査察がバレてしまった以上、もしかしたらサクリエルの過去編が始まってしまうかもしれぬ。こやつの過去とか別にマジで知りたくないのだが。


 しかし、そんな我の杞憂を知ってか知らずか。


「とりあえず、ほい、“神の怒り”」


「おほおおおおおおおッッッ???!!!」


「卑猥な声を出すな、サクリエル!」


 なんか珍しく無感情のジト目な女神がパチンッと指を弾くと、突如としてバチバチと電撃みたいなので身体をびくんびくんッと痙攣させられながら、無様なガニ股アヘ顔ダブルピースを晒すサクリエル。なんなん、こやつ。


 神の怒りにてそのふしだらな身に罰を与えられ、ステラの教育に悪そうな下品極まりない嬌声を喘ぎ続けるサクリエルは放っておくことにして。「ひぎいいいッ、ひどいでござるぅおほおおおッ!」「な、なんか長いな……」「やりすぎちゃったッ☆」


 まあ、快楽調教中の歩く猥褻物陳列罪なぞどうでもいい。そんなことよりも。


「ねえ、それにしても天界で我が見ぬ間にふたりに一体何があった?」


 互いの腕を組んで、すらりと背の高いアンフェルティアの肩に頭を乗せているステラ。なんかピンクい色の幸せオーラがハートの形で、明らかにイチャつくふたりの周囲をふわふわ漂っているのは何なのだ? これ、完全に恋人同士の関係でしか見られないヤツやないか。


「「え? 何もないけど?」

       ありませんけど?」

「絶対に何かあったろ、これ! 神聖な天界で何ヤッてんの!?」


「それを元魔王のアンタが言う?」


 大事に送り出した娘が宿敵とデキているなんて、そんなことある? い、いや、世界の平和的にはもしかしたらWin-Winかもしれないけど、父親としては当然ながら納得できるはずがない。よりにもよって顔とスタイルがいいだけの性欲の権化みたいなヤツに娘を寝取られるなんて。


「何かめちゃくちゃディスられた気がするわ」


「お父様、ワタシ達は清く正しく美しい関係ですわ!」


「その宣言も父親的にはしっかりダメージ判定あるからね!?」


 これ、完全にヤってんな。やはり性格に、いや、性癖にぶっ刺さる者同士を近付けるのはアカンかった。がくりと膝をつく。ブラハエルからは肉体的ダメージを、その直後にこやつらからまさかの精神的ダメージを受けるとは思わなかった。やめて、もうヘラちゃんのライフはゼロよ。


「と こ ろ で !」


「へぁ? ど、どうしたのだ、ステラ? そんな怖い顔をしちゃって」


 ずいっと我に詰め寄るステラの表情が珍しく怖い。けど、さすがステラ、怒ってる顔も可愛い。しかし、この感じはキスをしようと迫っているのではない。まるで、大事なデートになぜか親まで付いてきて全部台無しにされたかのような、そんなただならぬ怒りのオーラをずずずっと感じる。デートじゃないから我のはセーフだよね?


「お父様がわざわざこんなところまで来て何をしてらっしゃるのですか?」


「え、い、いや、その、ステラのことがどうしても心配でな、つ、つい……」


 我としては何もやましいことはない、どころか、むしろいいことしたまであるのだが、つい顔を背けてしどろもどろになってしまったのがどうやらマズかったようだ。


 しかし、マズったと思った我の心とは裏腹に、ステラの表情はなぜかどこか悲しそうだった。え、何かあった? さてはあのバカ女神め、ステラに何かしやがったか?


「……こんなボロボロになってしまって、お父様の方こそ大変なことになっているじゃありませんか」


 ステラは我が頬に付いた未だ癒えぬ傷に触れぬように、そっと我の顔に右手を添える。その真紅の瞳には今度は心配の色があって、なんだ、こやつ、ずいぶんと情緒が不安定だな、なぞと不謹慎にも思ってしまった。


「安心しろ、ステラ。キミが世界を征服するまで我が倒れることはない」


「ふふッ、お父様ったら……」


 堂々と胸を張ってみるが、ステラよりちょっと(色々と)小さい我ではあんまり迫力は出なかった。よく見たら、なんだかスタイル抜群のお姉さんたちに囲まれている構図になっているではないか。抜きゲーみたいな巨乳に囲まれている貧乳はどうすりゃいいですか?


「こんなにもボロボロで可愛らしいお父様を放ってはおけませんわね」


「なんで!?」


「かわいそうは可愛い、ですわよ、お父様。不憫萌え、というニッチなジャンルもありまして」


「父親を不憫萌えの対象にしないで!」


 おわかりいただけただろうか。明らかにうっとりと、傷だらけで衣服の乱れた我のことを見つめているステラのこの嗜虐的な表情を。真のドSはここにいたのかもしれない。


 実の娘にヘラ虐されかけてふるふると怯え散らかす我を見かねたのか、アンフェルティアはうんざりとため息を吐くと。


「仕方ないわね、ちょっとこれでも着てなさいよ」


「お? どうした、全能の女神(笑)、珍しく気が利くじゃないか」


 アンフェルティアは頬を赤らめた顔を我から逸らしながら、どこからともなくその装飾過多な右手に現れた白いワンピースをずいっと押し付けてくる。


「うるさいわね、普段あんまり肌の露出してないアンタみたいなのがボロボロになってると、ちょっと目のやり場に困るの!」


 その言葉に思わず自身を省みてみると、うむ、確かにこれはかなりセンシティブな破れ具合だ。大事なところが辛うじて見えてないだけで、もうほとんど半裸の痴女と言っても過言ではないレベルだ。そりゃ、サクリエルも勘違いしてしまうか。しかし、どんだけ攻撃されまくってるのよ、我。


 しかし、うひひ、こんな女神の恥じらう姿なぞなかなか見れぬしな。思わず、にやりと。


「なんだ、そんなことか。ほれほれ、これで見納めかもしれぬぞ、我のサービスショットをもっとちゃんと見ておかなくていいのか?」


「やぁん、さすがにちょっとエッチすぎますわ!」


「しまった、違う方が欲情してしまった!」


 ステラの猛攻を掻い潜りつつ、ぶっきらぼうに手渡されたひらっひらの布地は、天界の素材と技術で作られているのか、やたらと軽くて薄いような気がした。ボロボロのこの服よりよっぽど露出高くなりそうなのは気のせい?


 だが、いつまでもぼろ切れを纏ったままでいるのもイヤだしな。


「着替えてくるからあっち向いてろよ」


「はいはい、アンタの着替えなんて見てもしゃーないし、ステラちゃんはサクリエルと一緒に引き留めておいてあげるからさっさと着替えてきなさいよ」


「アンフェルティア様!? せっかくの御着替えタイムですわよ!? ワタシ達がしっかり描写しないでどうするのですか!?」


「父親の着替えるシーンなぞをこんなにも熱望する娘も珍しいな!」


 というか、なにゆえに我の着替えなぞのためにこんなにも描写を入れておるのだ。いくらファンサービスにしてもテンポが悪かろうに。どう考えてもわざわざ天界まで来てやることではない。いたいけな少女の着替えを見たい変態紳士なぞ、斬り捨て置いた方が世界の平和のためだと思うな、我。

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