こういうシチュエーションはラブコメだけにして!
「……ふん、おい、少し肩を貸せ。我は少し疲れた」
「うほッ、超絶美少女が小生に枝垂れかかってきたでござる! 激戦の後のいい匂いがむわあっとするでござる!」
「キモッ、や、やっぱり離れろ!」
「でゅふふ、我が生涯に一度あるかないかのチャンスでござる、この機会をみすみす逃してなるものか!」
「ちょ、おま、なん、なんか、え、力強っ、こ、これが喪女の力だというのか!?」
そのまま我にのしかかってくるサクリエルのだらしないおっぱいを、思いっきりべしべしもみもみぽかぽかする。が、すっかり力を使い果たした我のか弱い攻撃ではむしろ逆効果で、「なんか美少女と乳繰り合ってる思うと滾ってきたでござる!」とか言い始める始末。
完全に油断していた。こやつは我のこの身体よりもずっと大人で、いつも猫背のせいでそうでもないように見えるが実はスタイルもいい。真っ黒で陰気で悪魔っぽい角も生えてはいるが、一応こやつも女神の御写し、もちろん顔だけはめちゃくちゃいい。
いつも下に見てて悪戯してた男子が実は意外と力が強くて、抵抗虚しくあっさりメス堕ちされられてしまうとか、そういうのを我は決して望んでない!
だが、ただの美少女のか細い腕では、普段他者とコミュニケーションを取らぬあまり、力加減を全くわかっていないサクリエルには全く歯が立たない。マ、マズい、人畜無害だと思ってちょっかい出してたヤツが、距離感間違えて急に襲い掛かってきやがった。なんかこういうシチュエーションを同時に繰り出すんじゃあない!
「い、いいからとにかく離れろ! 我らはこういう、ただの友達だと思ってる女の子を、実は男の子が好きだったってパターンの甘酸っぱい感じのヤツじゃなかったじゃん!」
「小生だって甘酸っぱい恋愛してみたいでござる!」
「キャッ、い、痛っ」
「ファッ!? だ、大丈夫でござるか?」
「……もうやめて。この後絶対気まずくなるからな」涙目でキッと睨み上げながら。
「……む、マジトーンで言われるのが一番キツいでごさる。それは一理あるでござるな。ただでさえ遠いのに、これ以上ヘラ氏との距離が開いてしまうのはイヤでござる」
自身の下でじたばたと力なく抵抗するぼろぼろの我を見て、どうやらなんか急に冷静になったらしく、すすすっと我から離れるサクリエル。こやつが、傷付いた我の姿を見て嗜虐心をくすぐらせるようなドSじゃなくてマジで良かった。
とにかく、た、助かった~。ホントにどこで何が起こるか全くわからぬ。油断も隙もあったものではない。我は戦闘でボロボロになった衣服の乱れをできる限り直す。うむ、もっと気を引き締めて行こう。
なんかテンション極まった自身の、いとも容易く行われかけたえげつない行為に対して、恥ずかしいやら反省しているやらで、サクリエルは向こうを向いてしゅんと三角座りをしていた。
こやつの所業はひとまず置いといて。
思わぬ者から襲われかけたその衝撃で、バクバクと高鳴る不甲斐ない我の心臓と感情を抑えるために、ふうっと深呼吸。しばらくして、頬の火照りと心拍数がようやく落ち着いてから、我は改めて崩れ落ちたブラハエルの残骸を見つめる。
しかし、あの女神が言っていたのが気になるな。
ブラハエルは我を殺せるのだ、と女神は言っていた。
確かに苦戦こそしたものの、そこまで脅威だと感じるほどのものでもなかった。
よくはわからぬが、警戒だけは怠らずに、ということかな。
我は、ブラハエルの亡骸を別空間の収集庫へと封印する。もしこれが暴走しようものならば面倒なことになりそうだし、放っておくのも少し恐い。そうだ、あとでマッドサイエンティストどもにこれを解析、魔改造させても面白くなりそうだな。
「な、なんかごめんでござる、ヘラ氏。小生もどうかしてたでござる」
「い、いいよ、もう怒ってないから気にしないで」
「うぅ、もうすでに距離を感じるでござるぅ……」
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