こんなところでも寄り道:異世界豪華客船連続殺人事件

今まで読んでいた水着回は!?

「……ア、アレッ!? お、おい、待て待て、せっかくの水着回が全部丸々カットされているではないか! どういうことだってばよ!?」


「やっぱ水着回ってのはアニメでやるから映えるんすよ」


「ここはアニメ化を期待しましょうということでばっさりカットです」


「いやいや、そうは言っても結構重要なこと言ってたよ!?」


 ダンジョンで反省のために拷問していたオフィーリアとグロリアがしれっと再登場していたり、ここが海を渡る豪華客船の上だってことも全部端折っちゃってるじゃん! く、くぅ、つい説明口調になってしまう。いくらなんでも大胆カットしすぎでは? そういうのって、原作ではあんまりやらないよ?


「ほ、ほら、我が華麗なる白スク白ニーハイ姿を披露したり、今まで出会った女子が全員集合したり、そんな彼女達の普段見れないような水着姿にバ美肉したはずの我がドキドキしたり、ステラとの親子の確執とか、あのでしゃばりなすっとこどっこい女神との痴話喧嘩があったりなかったりとか色々盛りだくさんだったじゃん?」


「そういうのはダイジェストで十分ですので」


「なんか雑ぅ!」


 みんな海で楽しそうにしてたじゃん。そういう女子がキャッキャウフフしてる姿を、全国の変態紳士の皆さまは心待ちにしてるんじゃないの?


「ここでダラダラしているとせっかくカットした水着回が無駄になってしまいます。サクサクいきましょう」


「そんな生き急いでも良いことないと思うな、我は!」


 ここはがっつり海の上で、我らがどう頑張ったところで急に次の目的地に到着するわけでもない。ここでのダイジェストはさすがに良くない。


「いいからとりあえず、我らの現状を再確認しよう」


「お、なんかそういうの結構あるあるですよね。アタシ達が他愛のない会話で説明することで固くなりすぎないようにするっていう」


「おい、やめろ! すぐに手の内明かすじゃん!」


「メタい発言は作品への没入感を損ないますよ。せっかくのファンタジーなのにパロディばかりでは台無しです」


「おまいう?」


 水着回全カットの是非についてはまた別の機会に抗議するとして。


 しかしなあ。


 豪華客船だと言うから、我らもそれに合わせてラグジュアリーでファビラスなドレスに着替えたというのに、これではまったくもって台無しじゃないか。我らはこんなものに付き合ってられるほどお人好しでも、そもそも人でもないのだ。


「で、我らはこの人間の豪華客船でクルージングがてら次の領地へと向かっているところだな」


 我はいつものフリルがたくさんあしらわれたドレスとは趣向を変えて、落ち着いた雰囲気の漆黒のワンピースドレスにしてみた。装飾は少なめだが、透け感のあるレース生地の袖と胸元で我の慎ましやかな体型でもきっと色っぽくなったのではないか。


「シックなヘラ様もカワイイっすね~、襲いたくなっちゃいます」


「お、おい、やめろよ~、照れるじゃないか……今、なんて?」


 オフィーリアはその褐色の肌が映える真っ赤なで胸元どころか背中まで思いっきり開いたずいぶんと大胆不敵で挑発的なドレスに、ボリュームのある金髪をゴージャスにアップスタイルにしている。長身で出るとこ出たメリハリのある体型だとこういう派手なドレスも下品にならずに着こなせるなあ。


「オフィーリア、ダメ。まだです」


「まだ……?」


 水色のホルターネックのドレスはミニスカートがふんわりとしていて、グロリアの小柄な体形も相まって可愛らしい雰囲気になってる。それでも振り向けばオフィーリアに負けじと白くしなやかな背中が見えるのはギャップもあって魅力的だ。普段は(自称)クールキャラで(自称)理知的に振る舞っているが、たまにはこういう華やかな衣装も悪くないな。


「パーティで浮かれて油断したところを襲わなくては、またあの素敵な拷問の日々に逆戻りですから」


「ヘラ様に会えないなんて耐えられないっす!」


「……ねえ、キミ達、しばらく見ないうちになんか変な性癖属性付与されてない?」


 そんなことはさておき(いや、我が貞操的には由々しき事態なのだが)、今はこの現状を把握することが先決だ。


「次に査察する領地は、かつて人間の島国だった場所だからな、海を渡らねばならぬのだ」


 それともうひとつの目的もある。


「ファジムのバカ野郎を探してガツンと言わねばならぬ」


 ガツンとな。大事なことなので声にも出して、心の中でもついでに言っとく。こうすることで伏線を忘れないようにするのだ。


 しかし、ファジムの居場所について我らは何の情報も持ち合わせていない。わかっていることといえば、少なくとも火炎獣領にはいなかった、ということくらいだろう。


 我らはこれからファジムについての情報を集めなくてはならぬのだ。


 次なる目的地は、雷魔神領、ガカイシ。


 そこは、修羅の場だ。


 血が河を真っ赤に染め、肉が堆く積もり山となり、刀を持った鬼神が闊歩する地上における地獄のような国だった。


 自分以外は全て敵。


 そんな殺伐とした国だったから、我らの侵略も難航した。あやつらにとって、人間も魔物も、そして、敵も味方も関係ないのだ。


 雷魔神領にたどり着いたら我らも気を引き締めねばならぬ、とそう思っていたのだが。


「その前になあ……」


「ええ。これではせっかくの豪華クルージングの旅も台無しです」


 我らが乗り込んだこの船は、一見何の変哲もない帆船に見えるが、どうやら魔力駆動装置で動くめちゃくちゃハイテクな船らしい。かがくのちからってすげー!


 というわけで、急ぐ必要もない我らもこの船で、最も過酷な島国の領土、雷魔神領、ガカイシへ向かうことにした。


 豪華客船での海の旅。


 といっても、乗員は船長を含めて10人。乗客も10人ほどだと聞いた。豪華でもなんでもない普通の船に、かろうじて各々の部屋だけは確保してもらえた、というところだ。


 どうやら、人間の間でも昨今の転移魔法の普及によるポータル移動が主流になりつつあるようで、このような時間も金も無駄にかかる船旅はどんどん少なくなっているようだった。


 無駄な物にこそ手間暇をかける余裕もないとは、ずいぶんと世知辛い世の中になったものだ。のんびり船旅も楽しめないとは。


 もちろんこの船は人間や、エルフやドワーフなんかの神に与する忌まわしき亜人ども専用であって、もはや魔王領となった島国には直接向かわない。近くまで来たらそこからはオフィーリア達に頑張ってもらおうかな。


 我らが魔物だということは、乗客の皆にはナイショだよ☆


「で、アタシらの現状はというと」


「事件に巻き込まれている」

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